神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

渇いた音が、鳴り響く。それが、煌の打った柏手(かしわで)だと気づいた瞬間、双真はあわてて柔らかなぬくもりを手放した。

見覚えのあるそこは、ヘビ神の住まう天空の宮。質素な造りの室内には、煌に付き従うように側女(そばめ)である猪子の姿もあった。
予想されていたこととはいえ、気恥ずかしさに頬が熱くなる。

「……っ」
「よくぞ戻った。“上総ノ国”の赤い“神獣”とその“花嫁”よ。
これをもってなんじらの帰還を赦す。以後、“上総ノ国”の民のため、存分にその力を尽くすがよい」

驚いたように辺りを見回す瞳子と、思わずにらむように声の方角を振り返った双真の手首から、しゅるりと赤い紐がほどけた。
そのまま宙を舞い、一段高い御座(みくら)の上に座ったヘビ神の元へと飛んでいく。

「さて、その前に。
───赤い“花嫁”よ。なんじが赤狼の真の“花嫁”と為り得た証左を、示してもらおうかの」
「っ、それは!」

煌の言い分に双真はたまらず、反論の声をあげた。ここに今、自分と瞳子がいること、それこそが煌のいう『証左』ではないのか。

(第一、カカ様や猪子(いのこ)様ほどの“神階”にある方なら、瞳子自身を『()る』だけで解るはず)

「お控えなされよ、赤狼殿。いまカカ様がその真意を話されまするぞ」