神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

「……もうっ、ナニそれ! ばかみたいっ……」
「ん、オレも瞳子が好きだ」
「なに勝手に拡大解釈してんのよっ。アンタの脳内の翻訳機、壊れてるからねっ?」

───二人が“陽ノ元”に戻る(とき)まで、もうあとわずかだった。



「時と空間と実在を司るヒノカグツチ様に申し上げる」

障子を透かす陽が、やわらかく午後の室内を彩る。野鳥の鳴き声と羽ばたきが、薄い和紙を隔てた向こうから聞こえてきた。

自らの手首に巻かれた赤い紐のもう一端には、二度と離れることのない己の(まこと)の“花嫁”の手首があった。

「我が名は“上総ノ国”の赤い“神獣”赤狼こと双真。共に在るは、我が“花嫁”月島瞳子」

紐のないほうの互いの手をにぎり合い、告げる。

「我ら二人の帰還をお(ゆる)しいただき、受け入れてもらうことを心より願い、奉る」

たとえそれが、ヘビ神の嫌がらせのような要求であったとしても。
万に一つ(たが)えることのないよう慎重に、文言をつむぎ終えた唇でもって、すぐ側にある紅唇に触れる。

わずかに身じろぎ、緊張か恥じらいか───いや、そのどちらもであろう愛しの“花嫁”がもらした吐息を、場違いな恋情ごとのみこんだ───。