『あ、考人と同じ班だ。すごい偶然。よろしくね』
考人と同じ班になったあの時、あたし、すごく嬉しかった。
さらに考人が言ってくれた言葉は、今でも大切な宝物だ。
『なあ、杏。班も同じだし、たくさん思い出作ろうな』
『うん。いっぱい思い出作ろうね』
あの遠足の出来事を思い出し、朝から胸がドキドキする。
うん。現実なんかに負けない。
だって、お願いごとの力は無敵なんだから。
「これからも、考人と一緒に思い出いっぱい作りたいな」
考人との思い出が積もるだけで心が踊る。
去年の秋から、ずっと動かなかった時間が少しずつ進み出したから。
小さな勇気を握りしめて、心の中で願掛けをする。
『これからもどうか、考人と一緒に楽しく過ごせますように』
同じようにそう願った……去年の自分に教えてあげたい。
そのお願いごと、今叶っているよって。
だって、運命共同体になってから、考人とは以前と同じような仲良しの関係になっていたから。
遠足の準備をして、一階のリビングに向かう。
階段を降りた先には、朝食の香りが漂っていた。
「おはよう。杏」
「お母さん、おはよう」
奥のキッチンから出てきたお母さんが顔を出す。
「遠足のお弁当、キッチンに置いているわよ」
「うん。お母さん、ありがとう」
キッチンのテーブルには、お母さんが作ってくれたお弁当が置かれている。
「さあ、朝ごはんを食べましょう」
「……うん。いただきます」
席に座って、お母さんと一緒に食卓を囲む。
お父さんは朝早くからの仕事でもういない。
「お母さん、すごく美味しいよ……」
「ふふっ、杏、ありがとう」
とろけるような味わい。
目玉焼きを乗せたトーストは、片岡家の朝食の定番のメニュー。
あたしの大好物なんだー。
「あ、お父さんだ!」
視線を向けると、テレビでお父さんが天気予報を伝えている。
お天気キャスターのお父さんは、いつもテレビでみんなにお天気の情報を伝えている。
テレビの中のお父さんはかっこよくて、あたしもいつか、お天気キャスターになりたいって思っているんだ。
そんな憧れのお父さんが、今日は晴れだと伝えている。
晴れ……絶好の遠足日和だ。
朝食を終えると、あたしはお弁当をリュックサックに入れる。
「じゃあ、お母さん、行ってきまーす!」
「杏、気をつけてね!」
リュックサックを背負って玄関を出ると、太陽の光がきらきらとまぶしく輝いていた。



