静かに季節は移り、夏の強い陽射しが徐々に和らいでいった。
木々が茜色に染まる季節を迎えた、そんな小学5年生の秋の日。
赤坂小学校。放課後になると、どこもかしこも賑やかだ。
これから友達の家へ向かう人。
そのまま帰る準備をする人。
まだ、しばらく残って友達とおしゃべりをする人。
みんなと先生が歩く廊下は、そこら中から笑い声と足音が聞こえてくる。
毎日、同じ日を繰り返しているみたいな、変わらないありふれた日常。
いつもどおりの放課後が始まる校舎を、あたしは昇降口まで向かっていく。
すると、昇降口の手前で、見慣れた顔が立っていた。
「考人!」
「杏」
考人があたしの名前を呼んで振り返る。
あたしは考人をさがして、ここまで追いかけてきたんだ。
考人は『あの事故』以来、すっかり性格が変わってしまったから。
あたしは手にぎゅっと力を込める。
そして、全ての始まりの日を思い出す。
「杏、大変よ!」
お母さんが血相を変えて、部屋に飛び込んできたのは一年前のことだった。
その表情から、ただごとじゃないのは感じ取れていたんだけど。
「お母さん、どうしたの?」
「今、深瀬さんから電話があったんだけど……」
お母さんは大きく息を吸い込み、深刻な面持ちで言った。
「孝人くんが事故に巻き込まれたって」
「え……」
孝人が事故に巻き込まれた――。
あたしはその瞬間、世界がひっくり返ったような驚きと、底知れない恐怖に打ち震えたんだ。
その後もお母さんが必死にしゃべっていたけど。
ただ、『事故』という言葉だけが、あたしの頭の中をぐるぐると回っていた。
それから数日後。
あたしに突きつけられたのは、あまりにも非情な現実だった。
「あのね、深瀬さんから連絡があったんだけど……」
お母さんはあたしの手をゆっくりと握りしめて告げたんだ。
「孝人くん、意識を取り戻したみたいなんだけど、様子がどこかおかしいって……」
「なにそれ……?」
あたしの声が震える。呼吸が乱れてしまう。
だって、とても信じられないことだったから。
『事故に遭ってから、孝人の様子がおかしい』
という言葉の意味を理解するのに、すごく長い時間がかかった。
だって、信じたくなかったんだもん。
あたしはいつもの孝人しか知らなかったから。
だから、少なくとも病院に行くまで、それが事実だとは思っていなかったんだ。
でも……。
「……なに?」
考人はまるで別人のようになっていて。
息を切らして病室を訪ねたあたしをいとも簡単に戸惑わせた。
「あたし、杏だよ。片岡杏。幼なじみの……もしかしてあたしのこと、分からないの?」
「……知ってるよ」
今までの記憶はあるみたい。
なのに、この違和感はなに?
考人の様子が何だかおかしい気がする。
ふと、視線をさまよわせて気づいたんだ。
考人は手も足もギプスでかためられていて、頭にも包帯が巻かれている。
予想を上回る痛々しい姿に、あたしは足がすくんだ。
木々が茜色に染まる季節を迎えた、そんな小学5年生の秋の日。
赤坂小学校。放課後になると、どこもかしこも賑やかだ。
これから友達の家へ向かう人。
そのまま帰る準備をする人。
まだ、しばらく残って友達とおしゃべりをする人。
みんなと先生が歩く廊下は、そこら中から笑い声と足音が聞こえてくる。
毎日、同じ日を繰り返しているみたいな、変わらないありふれた日常。
いつもどおりの放課後が始まる校舎を、あたしは昇降口まで向かっていく。
すると、昇降口の手前で、見慣れた顔が立っていた。
「考人!」
「杏」
考人があたしの名前を呼んで振り返る。
あたしは考人をさがして、ここまで追いかけてきたんだ。
考人は『あの事故』以来、すっかり性格が変わってしまったから。
あたしは手にぎゅっと力を込める。
そして、全ての始まりの日を思い出す。
「杏、大変よ!」
お母さんが血相を変えて、部屋に飛び込んできたのは一年前のことだった。
その表情から、ただごとじゃないのは感じ取れていたんだけど。
「お母さん、どうしたの?」
「今、深瀬さんから電話があったんだけど……」
お母さんは大きく息を吸い込み、深刻な面持ちで言った。
「孝人くんが事故に巻き込まれたって」
「え……」
孝人が事故に巻き込まれた――。
あたしはその瞬間、世界がひっくり返ったような驚きと、底知れない恐怖に打ち震えたんだ。
その後もお母さんが必死にしゃべっていたけど。
ただ、『事故』という言葉だけが、あたしの頭の中をぐるぐると回っていた。
それから数日後。
あたしに突きつけられたのは、あまりにも非情な現実だった。
「あのね、深瀬さんから連絡があったんだけど……」
お母さんはあたしの手をゆっくりと握りしめて告げたんだ。
「孝人くん、意識を取り戻したみたいなんだけど、様子がどこかおかしいって……」
「なにそれ……?」
あたしの声が震える。呼吸が乱れてしまう。
だって、とても信じられないことだったから。
『事故に遭ってから、孝人の様子がおかしい』
という言葉の意味を理解するのに、すごく長い時間がかかった。
だって、信じたくなかったんだもん。
あたしはいつもの孝人しか知らなかったから。
だから、少なくとも病院に行くまで、それが事実だとは思っていなかったんだ。
でも……。
「……なに?」
考人はまるで別人のようになっていて。
息を切らして病室を訪ねたあたしをいとも簡単に戸惑わせた。
「あたし、杏だよ。片岡杏。幼なじみの……もしかしてあたしのこと、分からないの?」
「……知ってるよ」
今までの記憶はあるみたい。
なのに、この違和感はなに?
考人の様子が何だかおかしい気がする。
ふと、視線をさまよわせて気づいたんだ。
考人は手も足もギプスでかためられていて、頭にも包帯が巻かれている。
予想を上回る痛々しい姿に、あたしは足がすくんだ。



