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進藤くん、もとい、雅貴くんが愛想がよくない理由。

「ああ、それは母に、男がヘラヘラするなって言われて育ったせいですかね」
「え!?」

思わず、布団のなかで半身を起こしかけた。

まさかのドン引きなモラハラ案件───と、思いきや。それには彼のお母様なりの、ちゃんとした理由があった。

「オレが好きだなと思える相手にだけ、笑いかけろって言われて」

うん、キラースマイルだもんね。そりゃ、やたらに愛想振りまいちゃダメ。お母様、金言。

「でも……なかなかそんな相手に出逢うこともなくて、表情がうまく作れなくて」

仰向けで寝ていた雅貴くんは、私を見て少し笑った。

「いま、うまく笑えてますか」
「うん! 優しい笑顔で、すごく好き」
「……良かった」

くるりと反転した身体が、私をふたたびつつみこむ。
つい先程まで感じていた熱とは違う穏やかな温もりに、自然と笑みがこぼれる。



私は鍵を無くしてなかった。
今夜は、家の鍵も車のキーも、必要じゃなかっただけ。





       ── END ──



※このあと、後日談入ります。
オマケ程度の話ですが、よろしければお付き合いくださいませ。