更に、1ヶ月後。
晴明達が都に帰ってくる日になった。
都にある晴明の屋敷は、朝から式神達が掃除をし始めた。
博雅は晴明の屋敷に行った。
「今日、帰ってくるのか?」
「今日、向こうを立ちました。
お帰りは5日後になります。」
「そうか。」
「お酒飲まれて行きますか?」
「準備出来るのか?!」
「はい。
珱姫様からも、言われておりますので。」
「そうか。
ツマミはなんだ?」
「ししゃもを買ってますので、ししゃもです。
七輪用意しますね。」
「おう。
すまんな。」
博雅は、ししゃもをツマミに、晩酌を始めた。
晴明の屋敷に灯りが灯ったことで、右大臣は珱姫が帰って来たと思い、屋敷に来た。
「な…!
博雅!」
「あ、右大臣様。
どうされたのですか?」
「それは、こっちの言葉だ!
お主、ここで何している?
珱姫が帰って来たのか?」
「いいえ。」
「ならば、何故ここで晩酌しているのだ?!」
「式神達が、用意してくれまして…。」
「し…式神…?
そうか…。
珱姫ではなかったか…。」
「右大臣様もどうですか?」
「珱姫の居ない晩酌など要らぬわ!!
帰る!!」
右大臣は怒りながら帰り、博雅は心ゆくまで、晩酌をして楽しんだ。
「明日も来て良いか?」
「勿論です。
ツマミを用意して待ってます。」
「分かった。」
次の日、博雅は晴明の屋敷に来た。
「今日もすまんな。」
「いえいえ。
博雅様、晴明様の式神がいらっしゃいます。
お話しされますか?」
「勿論だ。」
式神は晴明の式神のとこに、博雅を案内した。
「おお。
博雅。」
「晴明…。
長い旅であっただろう。」
「そうでもないさ。」
何日かかった?」
「5日かな…。」
「そうか。
晴明の式神は、晴明だと思って、話しかけて良いのか?」
「勿論、
僕の分身だと思ってくれたらええ。」
「分かった。
吉備はどうだった?」
「静かで、天体観測に最適だった。」
「そうか。
妖などは出なかったか?」
「妖は出んかったけど、生き霊になりかけなのは出た。」
「生き霊って危ないんじゃなかったか?」
「そうや。
まぁ、なる前に止めたんやけどな。」
「そうか。
流石、晴明だな。」
「いや、今回は珱姫がしたんや。」
「へぇ…。
本当に最強の夫婦だな。」
そこに、ツマミとお酒を持って、式神が来た。
「博雅様、お待たせしました。」
「おお、ありがとう。
今日は鮎か。
美味しそうだ。」
鮎の身を箸で取り分け、一口食べてみた。
「うん!
塩加減もちょうどいい。
美味い!!」
「博雅様、いつもとお変わりなく…。」
「珱姫!
右大臣が苛立っていたぞ?」
「放っておけばいいんです。
あの方と話す気はありませんから。」
「ははは。
珱姫も言うようになったな。
それでこそ、晴明の妻!
ははは。」
「博雅様、楽しんでませんか?」
「いやいや。
楽しんではないよ。
大変だな。とは思っている。」
そこに、右大臣が来た。
「珱姫!
そなた、もう帰ってこれたのか?!」
「右大臣様、これは式神です。
珱姫本人ではありません。」
「そうなのか…。
珱姫、いつになったら帰ってくるのだ?」
「まだまだ帰りません。
晴明様が星を見る時間が、要りますので。」
「そんな…。
珱姫だけ帰ってこれぬのか?」
「はい。
晴明様と一緒に帰ります。」
「そうか…。
晴明、あと何日かかる?」
「そうですね…。
ひと月でしょうか…。」
「嘘を申すな!
昨日は5日と申したではないか!」
「星を見ていたら、遅くなりそうなので…。」
「星など、都で見れば良いではないか!」
「星の見え方が違うんですよ。」
「むぅ…!
早く帰って参れ!」
「早く帰りたいのは山々ですが…。
なにぶん、星を見るのも陰陽師の仕事ですので…。
珱姫にも教えないといけませんし…。」
「お主の魂胆は、分かっておる!
そうやって、珱姫と私の邪魔をしているのであろう?
珱姫が取られたくないから。」
「あの、わたくしは、晴明様の妻で、他の殿方の妻になる気はありませんよ?」
「いいや。
珱姫は私の側室にする!」
「もし、それをなさるのであれば、わたくしは自分で舌を噛んで死にます。」
「なんと言うことを申すのだ!!」
「晴明様でなければならないからです。」
「ぐぬぅ…!」
「まだ諦めておらんのか!」
「誰だ?
私にため口とは!!」
右大臣が振り向くと、そこにいたのは帝だった。
「わたしが言ったのだが?
何か問題か?」
「い…いえっっ!!」
「それより、まだ諦めてなかったのか!!
珱姫は、晴明の妻だ!!
手に入らん!!
諦めよ!と申したはず!!」
「そうですが…。」
「なんだ?
わたしに意見か?」
「い…いえっっ!!」
「珱姫。
安心して帰ってこられよ。」
「はい。
帝。」
「して、何日くらいかかりそうか?」
「5日を目標にしております。
僕の見立てでは、あと4日の夜中と、思っております。」
「そうか。
気を付けて帰ってこられよ。」
「はい。
ありがとうございます。」
帝は右大臣を引っ張って帰って行った。
博雅は晴明達が帰ってくるまで、毎日、晩酌を晴明の屋敷でやっていた。
この日も、晴明の屋敷で晩酌をしていた博雅。
「博雅。
毎日毎日、よく晩酌にきたものや。」
「ふふふ…。
いいじゃないですか。
元々、来て頂くために、ツマミも用意していたのですから。」
「珱姫様の言うとおりですよ。」
「ふふふ…。
僕、結構、楽しんでたんやで?
博雅が僕の式神と話すの。」
「そうだったのか?」
「そうやで。
あ、もう着くで。」
「へ?
どこに?」
「僕の屋敷以外どこに着くんや!」
「へ?
ここに?
もう着く?」
「そうや。
外出たら見えるわ。」
「本当か?!」
博雅は慌てて外に出た。
「博雅様ぁ!
帰りましたぁ!」
「珱姫!」
「博雅、帰ったで。」
「晴明!」
「ほな、晩酌しよか?」
「分かりました。
ツマミを作りますね。」
「晴明と珱姫だぁ!」
「なに感動してんねん。」
「そりゃ、するさ。
この日を待っていたのだから。」
「ふふふ…。
さぁ、お2人とも、中に入りましょ。」
珱姫に言われて、晴明と博雅は中に入った。
「すぐにツマミを出しますね。」
「珱姫。
疲れてへんの?」
「はい。
大丈夫です。」
珱姫は台所に行き、ツマミを作り始めた。
「で、どうだったんだ?
吉備での暮らしは?」
「時がゆっくり進んでるような気がして、ゆっくり出来たよ。
珱姫も喜んでたし。」
「そうか。
それは良かった。」
「都はどうやったん?」
「それが、右大臣が珱姫の事諦めてなくてな…。
帝に怒られてばかりだった。」
「そうなんや。
まだ、諦めてへんの?
吉備まで行ったのに…。」
「やはり、右大臣のせいだったか…。」
「なにがや?」
「吉備への旅立ち。」
「そやで。
珱姫もはっきり右大臣のとこには行けません。ってゆうてるのに、しつこいからきびに行ってん。」
「そうか…。
晴明達が帰って来たことは、すぐに広がる。
右大臣の耳にも入るだろう。
どうする?」
「右大臣は式神を怖がっていた?」
「全然…。」
「ほな、僕の式神出して驚かすしかないな。」
「晴明の式神は、珱姫と違うのか?」
「ああ。
僕のは、人の形をしてないんや。」
「そうなのか?!
でも、式神は式神だろ?
何故そんなに違うんだ?」
「珱姫は基本植物やねん。
酒は別やけど。
だから、人形のなんねん。
でも、僕のは動物が多いから、人形をしてへんねん。
僕のは、珱姫が言うには、怪物らしい。
まぁ、妖に妖と思われたりしてるしな。」
「そうなのか!
じゃあ、晴明の式神はどこにいるんだ?」
「一条戻橋の袂。
珱姫が嫌ってるから。」
「一条戻橋?!
あそこで、妖が現れると言われてるが、まさか…。」
「そう。
僕の式神やねん。」
「そうだったのか!!」
「そうやねん。」
そこに、珱姫が来た。
「お2人ともお話しが弾んでるようで…。」
「珱姫!」
「弾んでたのは、僕の式神についてや。」
「あの妖式神の事ですか?!」
「妖違うから!」
「あれは妖です!」
「そんなに妖に見えるのか?」
「はい!」
「そうや。」
「見てみたいな…。」
「右大臣が来たら見れるわ。」
「右大臣に晴明様の式神を見せるんですか?!」
「そうや。
まだ、珱ひめのこと諦めてへんみたいやから。」
「それはいいですね。」
「面白くなってきた。
私も見ておこう。」
「面白いからええやろ。」
「そうですね。」
そんな話をしていたら、右大臣が意気揚々と珱姫を奪いに来た。
「珱姫。
今日こそは、連れて帰るぞ。
珱姫は私のものだ!」
その希望は打ち破れようとしていた。
「珱姫、きたで。」
「では、始めますか。
博雅様、ここに隠れて見ていて下さい。」
「わ…分かった。」
右大臣は誰にも案内されないまま、勝手に屋敷に上がり込んできた。
「珱姫。
私が来たぞ。
隠れているのか?」
暗闇の中、屋敷中を歩き回る右大臣。
「珱姫!
見つけたぞ!
さぁ、私の屋敷に帰ろう。」
式神が振り向くと、珱姫に全然似ていない妖がいた。
「あ…あ…妖!!
晴明!!
妖だ!!
私を救え!!」
右大臣は叫ぶ叫ぶ。
それでも、誰も出てこないことに不安になり、右大臣はそそくさと、逃げるように帰って行った。
「これは…。
妖と思われても仕方ないな…。
珱姫の式神を、いつも見ているからか、違和感しかない…。」
「せやろ?
だから、僕あんまり、式神出さへんねん。」
「なるほどな。」
「博雅、僕がおらん時の都はどうやった?」
「陰陽師寮の人達で、なんとかなっていた。」
「そうか。」
「陰陽師達は、晴明がいない事に不安を抱えてるように見えたがな。」
「そうか。
博雅…。」
「なんだ?」
「僕がおらへんようになったら、都はどうなるんやろ…。」
「は?
また、どこかに行くのか?」
「そやなくて、僕が死んだらってことや。」
「晴明が死ぬ?
そんな事、今から考えているのか?」
「考えるやろ。
こんなに頼られてたら。」
「まだ先のことだろ?」
「そうやけど…。
どうなるか分からんやん。」
「そうだが…。
今から考えるのは、時期早々だろ。
なぁ?
珱姫。」
「そうですよ。
わたくしは、そんな事考えたくありません。
ずっと、晴明様と居たいから。」
「珱姫…。
そやなぁ…。
僕も珱姫とずっと居りたいな…。」
「すっと一緒ですよ。」
「分かった。一緒に居よう。」
「晴明、何故そんなことを考えた?」
「陰陽師寮の皆は、僕より弱いから不安なんや。」
「晴明…。」
「僕が術を教えても、彼らに使いきれへん。
珱姫やったら使えるけど、珱姫ほどの者も居らん。
そう思ったら、ふと考えてしまったんや。」
珱姫は晴明に抱きついた。
「僕も珱姫もおらんなったら、どうするやろ…。」
「そんな事お考えにならないでください。」
「ごめんな、珱姫。
不安にさせたな…。」
珱姫は首を振った。
その時、珱姫の式神が来た。
「どうしたの?」
「珱姫様のご命令で、綾子様を唆していた人物を、探しておりました桜です。」
「誰が唆していたか分かったの?」
「はい。
調べるのに時間がかかりました。
申し訳ございません。
なにぶん、式神の存在がバレ、何体も壊されてしまっていましたので…。」
「わたくしの式神が壊されてきた?!」
「はい。」
「それは、かなり強力な術者だわ…。」
「そうなんです。」
「で、誰やったん?」
「はい。
現在、陰陽師達を束ねている、蘆屋道満様でした。」
「蘆屋道満?!」
「あの有名な蘆屋道満様?!」
「蘆屋道満殿が?!」
「はい。
なので、何回も壊されて来たのです。」
「なるほど…。
わたくしの式神を、壊されるのも納得です。
晴明様、いかが致しましょう。」
「帝に話したところで、信じてもらえるか…。」
「そうですよね…。」
「でも、本当に、蘆屋道満殿がやったのであれば、お知らせしない訳にもいかぬだろ…。」
「そうですが…。」
「一大事やで…。」
そこに、珱姫の式神が、もう1体慌てた様子で来た。
「どうしたの・
そんなに慌てて…。」
「蘆屋道満様が、こちらに向かってます。」
「なんですって?!」
「まさか、式神の件で?!」
「多分、そうやろ…。」
「そこまでは分かりません。
探りましょうか?」
「バレたら、それこそ、大変んな事になるから、今はいいわ。」
「分かりました。」
式神が下がると、蘆屋道満が屋敷に来た。
「安倍晴明!
珱姫!
わたしが、わざわざ来てやったのだ。
おもてなしをせんか!」
「晴明様と珱姫様は、こちらにおいでです。
ご案内いたします。」
式神の案内で、道満は晴明達のとこに来た。
「源博雅殿ではありませんか。
3人で晩酌ですか。
良いですなぁ…。
わたしも入れてもらえますかな?」
「かしこまりました。
すぐに、蘆屋道満様のご用意を…。」
珱姫は式神に命令した。
式神は、すぐに道満のお酒の準備をした。
「ツマミは、魚と漬物ですか…。
良いですなぁ…。」
4人で、晩酌をして、話しを沢山した。
それでも、晴明と珱姫は警戒していた。
「そろそろ、わたしは帰るとするかな…。」
「では、牛車の用意をさせて頂きます。」
「すまんな。」
「いえいえ…。」
珱姫は、すぐに牛車を用意した。
「道満様、お気を付けて…。」
「ああ、大丈夫だ。」
道満は小声で珱姫の耳元で言った。
「珱姫。
お主、わたしが綾子様を操っているのを、知っておるな?
互いのためにも、この事は内密に…。」
珱姫は固まってしまった。
「では、また、飲みましょうぞ。」
蘆屋道満は帰って行った。
「珱姫、どうしたんや?」
「い…いえ…。
なんでも…。」
「珱姫。
僕に嘘は通用せぇへんよ?」
「ですよね…。
実は、先ほど…。」
珱姫は道満に言われたことを話した。
「そんなこと言われたん?!
大丈夫や。
僕が守るから。」
「分かりました。」
夜が明け、博雅も帰った。
「珱姫、少し寝ようや。」
「そうですね。」
2人は寝る事にした。
晴明達が都に帰ってくる日になった。
都にある晴明の屋敷は、朝から式神達が掃除をし始めた。
博雅は晴明の屋敷に行った。
「今日、帰ってくるのか?」
「今日、向こうを立ちました。
お帰りは5日後になります。」
「そうか。」
「お酒飲まれて行きますか?」
「準備出来るのか?!」
「はい。
珱姫様からも、言われておりますので。」
「そうか。
ツマミはなんだ?」
「ししゃもを買ってますので、ししゃもです。
七輪用意しますね。」
「おう。
すまんな。」
博雅は、ししゃもをツマミに、晩酌を始めた。
晴明の屋敷に灯りが灯ったことで、右大臣は珱姫が帰って来たと思い、屋敷に来た。
「な…!
博雅!」
「あ、右大臣様。
どうされたのですか?」
「それは、こっちの言葉だ!
お主、ここで何している?
珱姫が帰って来たのか?」
「いいえ。」
「ならば、何故ここで晩酌しているのだ?!」
「式神達が、用意してくれまして…。」
「し…式神…?
そうか…。
珱姫ではなかったか…。」
「右大臣様もどうですか?」
「珱姫の居ない晩酌など要らぬわ!!
帰る!!」
右大臣は怒りながら帰り、博雅は心ゆくまで、晩酌をして楽しんだ。
「明日も来て良いか?」
「勿論です。
ツマミを用意して待ってます。」
「分かった。」
次の日、博雅は晴明の屋敷に来た。
「今日もすまんな。」
「いえいえ。
博雅様、晴明様の式神がいらっしゃいます。
お話しされますか?」
「勿論だ。」
式神は晴明の式神のとこに、博雅を案内した。
「おお。
博雅。」
「晴明…。
長い旅であっただろう。」
「そうでもないさ。」
何日かかった?」
「5日かな…。」
「そうか。
晴明の式神は、晴明だと思って、話しかけて良いのか?」
「勿論、
僕の分身だと思ってくれたらええ。」
「分かった。
吉備はどうだった?」
「静かで、天体観測に最適だった。」
「そうか。
妖などは出なかったか?」
「妖は出んかったけど、生き霊になりかけなのは出た。」
「生き霊って危ないんじゃなかったか?」
「そうや。
まぁ、なる前に止めたんやけどな。」
「そうか。
流石、晴明だな。」
「いや、今回は珱姫がしたんや。」
「へぇ…。
本当に最強の夫婦だな。」
そこに、ツマミとお酒を持って、式神が来た。
「博雅様、お待たせしました。」
「おお、ありがとう。
今日は鮎か。
美味しそうだ。」
鮎の身を箸で取り分け、一口食べてみた。
「うん!
塩加減もちょうどいい。
美味い!!」
「博雅様、いつもとお変わりなく…。」
「珱姫!
右大臣が苛立っていたぞ?」
「放っておけばいいんです。
あの方と話す気はありませんから。」
「ははは。
珱姫も言うようになったな。
それでこそ、晴明の妻!
ははは。」
「博雅様、楽しんでませんか?」
「いやいや。
楽しんではないよ。
大変だな。とは思っている。」
そこに、右大臣が来た。
「珱姫!
そなた、もう帰ってこれたのか?!」
「右大臣様、これは式神です。
珱姫本人ではありません。」
「そうなのか…。
珱姫、いつになったら帰ってくるのだ?」
「まだまだ帰りません。
晴明様が星を見る時間が、要りますので。」
「そんな…。
珱姫だけ帰ってこれぬのか?」
「はい。
晴明様と一緒に帰ります。」
「そうか…。
晴明、あと何日かかる?」
「そうですね…。
ひと月でしょうか…。」
「嘘を申すな!
昨日は5日と申したではないか!」
「星を見ていたら、遅くなりそうなので…。」
「星など、都で見れば良いではないか!」
「星の見え方が違うんですよ。」
「むぅ…!
早く帰って参れ!」
「早く帰りたいのは山々ですが…。
なにぶん、星を見るのも陰陽師の仕事ですので…。
珱姫にも教えないといけませんし…。」
「お主の魂胆は、分かっておる!
そうやって、珱姫と私の邪魔をしているのであろう?
珱姫が取られたくないから。」
「あの、わたくしは、晴明様の妻で、他の殿方の妻になる気はありませんよ?」
「いいや。
珱姫は私の側室にする!」
「もし、それをなさるのであれば、わたくしは自分で舌を噛んで死にます。」
「なんと言うことを申すのだ!!」
「晴明様でなければならないからです。」
「ぐぬぅ…!」
「まだ諦めておらんのか!」
「誰だ?
私にため口とは!!」
右大臣が振り向くと、そこにいたのは帝だった。
「わたしが言ったのだが?
何か問題か?」
「い…いえっっ!!」
「それより、まだ諦めてなかったのか!!
珱姫は、晴明の妻だ!!
手に入らん!!
諦めよ!と申したはず!!」
「そうですが…。」
「なんだ?
わたしに意見か?」
「い…いえっっ!!」
「珱姫。
安心して帰ってこられよ。」
「はい。
帝。」
「して、何日くらいかかりそうか?」
「5日を目標にしております。
僕の見立てでは、あと4日の夜中と、思っております。」
「そうか。
気を付けて帰ってこられよ。」
「はい。
ありがとうございます。」
帝は右大臣を引っ張って帰って行った。
博雅は晴明達が帰ってくるまで、毎日、晩酌を晴明の屋敷でやっていた。
この日も、晴明の屋敷で晩酌をしていた博雅。
「博雅。
毎日毎日、よく晩酌にきたものや。」
「ふふふ…。
いいじゃないですか。
元々、来て頂くために、ツマミも用意していたのですから。」
「珱姫様の言うとおりですよ。」
「ふふふ…。
僕、結構、楽しんでたんやで?
博雅が僕の式神と話すの。」
「そうだったのか?」
「そうやで。
あ、もう着くで。」
「へ?
どこに?」
「僕の屋敷以外どこに着くんや!」
「へ?
ここに?
もう着く?」
「そうや。
外出たら見えるわ。」
「本当か?!」
博雅は慌てて外に出た。
「博雅様ぁ!
帰りましたぁ!」
「珱姫!」
「博雅、帰ったで。」
「晴明!」
「ほな、晩酌しよか?」
「分かりました。
ツマミを作りますね。」
「晴明と珱姫だぁ!」
「なに感動してんねん。」
「そりゃ、するさ。
この日を待っていたのだから。」
「ふふふ…。
さぁ、お2人とも、中に入りましょ。」
珱姫に言われて、晴明と博雅は中に入った。
「すぐにツマミを出しますね。」
「珱姫。
疲れてへんの?」
「はい。
大丈夫です。」
珱姫は台所に行き、ツマミを作り始めた。
「で、どうだったんだ?
吉備での暮らしは?」
「時がゆっくり進んでるような気がして、ゆっくり出来たよ。
珱姫も喜んでたし。」
「そうか。
それは良かった。」
「都はどうやったん?」
「それが、右大臣が珱姫の事諦めてなくてな…。
帝に怒られてばかりだった。」
「そうなんや。
まだ、諦めてへんの?
吉備まで行ったのに…。」
「やはり、右大臣のせいだったか…。」
「なにがや?」
「吉備への旅立ち。」
「そやで。
珱姫もはっきり右大臣のとこには行けません。ってゆうてるのに、しつこいからきびに行ってん。」
「そうか…。
晴明達が帰って来たことは、すぐに広がる。
右大臣の耳にも入るだろう。
どうする?」
「右大臣は式神を怖がっていた?」
「全然…。」
「ほな、僕の式神出して驚かすしかないな。」
「晴明の式神は、珱姫と違うのか?」
「ああ。
僕のは、人の形をしてないんや。」
「そうなのか?!
でも、式神は式神だろ?
何故そんなに違うんだ?」
「珱姫は基本植物やねん。
酒は別やけど。
だから、人形のなんねん。
でも、僕のは動物が多いから、人形をしてへんねん。
僕のは、珱姫が言うには、怪物らしい。
まぁ、妖に妖と思われたりしてるしな。」
「そうなのか!
じゃあ、晴明の式神はどこにいるんだ?」
「一条戻橋の袂。
珱姫が嫌ってるから。」
「一条戻橋?!
あそこで、妖が現れると言われてるが、まさか…。」
「そう。
僕の式神やねん。」
「そうだったのか!!」
「そうやねん。」
そこに、珱姫が来た。
「お2人ともお話しが弾んでるようで…。」
「珱姫!」
「弾んでたのは、僕の式神についてや。」
「あの妖式神の事ですか?!」
「妖違うから!」
「あれは妖です!」
「そんなに妖に見えるのか?」
「はい!」
「そうや。」
「見てみたいな…。」
「右大臣が来たら見れるわ。」
「右大臣に晴明様の式神を見せるんですか?!」
「そうや。
まだ、珱ひめのこと諦めてへんみたいやから。」
「それはいいですね。」
「面白くなってきた。
私も見ておこう。」
「面白いからええやろ。」
「そうですね。」
そんな話をしていたら、右大臣が意気揚々と珱姫を奪いに来た。
「珱姫。
今日こそは、連れて帰るぞ。
珱姫は私のものだ!」
その希望は打ち破れようとしていた。
「珱姫、きたで。」
「では、始めますか。
博雅様、ここに隠れて見ていて下さい。」
「わ…分かった。」
右大臣は誰にも案内されないまま、勝手に屋敷に上がり込んできた。
「珱姫。
私が来たぞ。
隠れているのか?」
暗闇の中、屋敷中を歩き回る右大臣。
「珱姫!
見つけたぞ!
さぁ、私の屋敷に帰ろう。」
式神が振り向くと、珱姫に全然似ていない妖がいた。
「あ…あ…妖!!
晴明!!
妖だ!!
私を救え!!」
右大臣は叫ぶ叫ぶ。
それでも、誰も出てこないことに不安になり、右大臣はそそくさと、逃げるように帰って行った。
「これは…。
妖と思われても仕方ないな…。
珱姫の式神を、いつも見ているからか、違和感しかない…。」
「せやろ?
だから、僕あんまり、式神出さへんねん。」
「なるほどな。」
「博雅、僕がおらん時の都はどうやった?」
「陰陽師寮の人達で、なんとかなっていた。」
「そうか。」
「陰陽師達は、晴明がいない事に不安を抱えてるように見えたがな。」
「そうか。
博雅…。」
「なんだ?」
「僕がおらへんようになったら、都はどうなるんやろ…。」
「は?
また、どこかに行くのか?」
「そやなくて、僕が死んだらってことや。」
「晴明が死ぬ?
そんな事、今から考えているのか?」
「考えるやろ。
こんなに頼られてたら。」
「まだ先のことだろ?」
「そうやけど…。
どうなるか分からんやん。」
「そうだが…。
今から考えるのは、時期早々だろ。
なぁ?
珱姫。」
「そうですよ。
わたくしは、そんな事考えたくありません。
ずっと、晴明様と居たいから。」
「珱姫…。
そやなぁ…。
僕も珱姫とずっと居りたいな…。」
「すっと一緒ですよ。」
「分かった。一緒に居よう。」
「晴明、何故そんなことを考えた?」
「陰陽師寮の皆は、僕より弱いから不安なんや。」
「晴明…。」
「僕が術を教えても、彼らに使いきれへん。
珱姫やったら使えるけど、珱姫ほどの者も居らん。
そう思ったら、ふと考えてしまったんや。」
珱姫は晴明に抱きついた。
「僕も珱姫もおらんなったら、どうするやろ…。」
「そんな事お考えにならないでください。」
「ごめんな、珱姫。
不安にさせたな…。」
珱姫は首を振った。
その時、珱姫の式神が来た。
「どうしたの?」
「珱姫様のご命令で、綾子様を唆していた人物を、探しておりました桜です。」
「誰が唆していたか分かったの?」
「はい。
調べるのに時間がかかりました。
申し訳ございません。
なにぶん、式神の存在がバレ、何体も壊されてしまっていましたので…。」
「わたくしの式神が壊されてきた?!」
「はい。」
「それは、かなり強力な術者だわ…。」
「そうなんです。」
「で、誰やったん?」
「はい。
現在、陰陽師達を束ねている、蘆屋道満様でした。」
「蘆屋道満?!」
「あの有名な蘆屋道満様?!」
「蘆屋道満殿が?!」
「はい。
なので、何回も壊されて来たのです。」
「なるほど…。
わたくしの式神を、壊されるのも納得です。
晴明様、いかが致しましょう。」
「帝に話したところで、信じてもらえるか…。」
「そうですよね…。」
「でも、本当に、蘆屋道満殿がやったのであれば、お知らせしない訳にもいかぬだろ…。」
「そうですが…。」
「一大事やで…。」
そこに、珱姫の式神が、もう1体慌てた様子で来た。
「どうしたの・
そんなに慌てて…。」
「蘆屋道満様が、こちらに向かってます。」
「なんですって?!」
「まさか、式神の件で?!」
「多分、そうやろ…。」
「そこまでは分かりません。
探りましょうか?」
「バレたら、それこそ、大変んな事になるから、今はいいわ。」
「分かりました。」
式神が下がると、蘆屋道満が屋敷に来た。
「安倍晴明!
珱姫!
わたしが、わざわざ来てやったのだ。
おもてなしをせんか!」
「晴明様と珱姫様は、こちらにおいでです。
ご案内いたします。」
式神の案内で、道満は晴明達のとこに来た。
「源博雅殿ではありませんか。
3人で晩酌ですか。
良いですなぁ…。
わたしも入れてもらえますかな?」
「かしこまりました。
すぐに、蘆屋道満様のご用意を…。」
珱姫は式神に命令した。
式神は、すぐに道満のお酒の準備をした。
「ツマミは、魚と漬物ですか…。
良いですなぁ…。」
4人で、晩酌をして、話しを沢山した。
それでも、晴明と珱姫は警戒していた。
「そろそろ、わたしは帰るとするかな…。」
「では、牛車の用意をさせて頂きます。」
「すまんな。」
「いえいえ…。」
珱姫は、すぐに牛車を用意した。
「道満様、お気を付けて…。」
「ああ、大丈夫だ。」
道満は小声で珱姫の耳元で言った。
「珱姫。
お主、わたしが綾子様を操っているのを、知っておるな?
互いのためにも、この事は内密に…。」
珱姫は固まってしまった。
「では、また、飲みましょうぞ。」
蘆屋道満は帰って行った。
「珱姫、どうしたんや?」
「い…いえ…。
なんでも…。」
「珱姫。
僕に嘘は通用せぇへんよ?」
「ですよね…。
実は、先ほど…。」
珱姫は道満に言われたことを話した。
「そんなこと言われたん?!
大丈夫や。
僕が守るから。」
「分かりました。」
夜が明け、博雅も帰った。
「珱姫、少し寝ようや。」
「そうですね。」
2人は寝る事にした。



