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 それからは日々が目まぐるしく過ぎて行く。

 弘徽殿への引っ越しも終え、住み慣れてきたころには腹もかなり膨らんできた。
 腹の中から蹴られて夜中目覚めるようなこともあり、悪阻が酷かった妊娠初期とはまた違った大変さがある。

 よく蹴ってくるのだと弧月に話すと。

「快活な子なのだな。男かもしれぬな」

 と楽し気に腹を撫でてくれた。

 そんな穏やかな時を過ごしながらも莢子の入内の準備も着々と進んで行く。


 縮こまる様な寒い冬も越え、春の兆しが温かな陽光と共に芽吹いてきた。
 美鶴も臨月に入り、いつ子が生まれてもおかしくはない。
 予定としては桜が芽吹く辺りと言われていたが、よく腹を蹴る快活さから早く生まれてくるかもしれないとも言われた。

 そんな中、莢子の入内も準備が整う。
 入内に良き日も占われ、その日も指折り数えられるほどに差し迫っていた。

 あと三日もすればこの七殿五舎に住む者が増えるのだな、と複雑な心境でいた美鶴は、その夜夢を見る。
 忙しくなり弧月も共寝出来なくなって一人寝していた夜。
 悪夢にうなされ目覚めた美鶴は、夢の内容にとっさに腹を守るよう抱えた。

(大丈夫、痛みはない。あれは、夢だわ……)

 今、現実に起こっている事ではないことに安堵する。

(でも……)

 だが、これは夢見――予知の夢だ。
 そして、夢見の内容からしてこれは三日後に起こること。

「なんてことっ……!」

 莢子の入内の日に起こるであろう事件。
 そして腹の痛み。流れる血。そして、お腹の子が――。

「っ!……駄目よ、させない」

 燃えるように強い意思が美鶴の中に宿る。

(この子は……私の子は死なせない)

 静まり返った清夜(せいや)の中、美鶴は闇を睨みながら決意した。

「私の大事な子。必ず守って見せる」

 と。