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「みんな、今日はありがとう。こうして、収穫を祝える日が来たことをうれしく思う。すべて皆のおかげだ」

 収穫祭も終盤、領主オレール・ダヤンのあいさつで、祭りは締められる。
 屋敷でも、ささやかに宴が模様されていたが、オレールとブランシュは、ここで部屋に戻る予定だ。お偉方が長く居ると気が抜けないだろうというオレールの談に、ブランシュは大きく頷いた。

「残る料理は皆で存分に味わってくれ」
「お、お待ちください!」

 そこへ、大きな足音を立てて、マリーズがやって来た。
 使用人たちが何事かを顔を見合わせていると、彼女の後ろから、フードをかぶった男が歩み出る。
 ざわつく使用人たちを一瞥し、おもむろにフードをとって、その姿をあらわにする。

「だ、ダミアン様?」
「兄上?」

 ブランシュは耳を疑った。隣に立つオレールは、ゆっくりと広間の中央にやって来る男を食い入るように見つめている。
 茶色の髪に、灰褐色の瞳。顔のつくりはオレールと似ているものの、体の線は彼のほうが細い。

「オレール様の、お兄様?」

 ブランシュも驚きを隠せない。

「そうだ。ダミアン・ダヤンだよ。よろしく、聖女様」

 口角を上げ、不敵な微笑みをオレールに向ける。

「久しぶりだな、皆。まさかオレールが跡目を継いでいるとは思わなかったよ。次期領主は俺だと思っていたんだが、どういうことだ?」
「まずは兄上、お帰りなさいませ」

 オレールは気を取り直したようにそう言った。
 その彼をかばうように、レジスが前に立つ。

「ダミアン様、お久しぶりでございます。弟君とはいえ、今はオレール様が当主です。口の利き方に気を付けていただきたく思います」
「はぁ? レジス、お前まだここにいたのか。役立たずのお前に、そんな説教をされるとはな」

 威圧的に怒鳴られるも、レジスは表情を変えずにじっとしている。オレールは鼻で笑い、レジスを押しのけた。

「オレール。代理領主ご苦労だったな。今後の話をしたいから、時間をくれるか?」

 当然の表情でそんなことを言われ、ブランシュは思わず目を剥いた。

「ちょっ、代理ってどういうことですか?」
「言った通りの意味ですよ。聖女様。あなたの夫となるこの男は、ダヤン領の領主ではないのです。後継者は長男である私なのですから」
「今更……?」

 ブランシュのつぶやきに、周囲がざわめく。
 とりわけ、シプリアンをはじめとした使用人たちは複雑な表情だ。