【お手紙お返事ぺーパー】8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました。小話

『父さんには会ったことないから、寂しいって感情もない。ただ、父さんの話をしている母さんは幸せそうだったから、好きかな』

 リーフェは面倒くさいことが嫌いだ。だから自分の感情について、深く考えるのも好きじゃない。母親を失ったことも父親が最初からいないことも、不幸だなんて考えたことはないのだ。なにせ、比べる相手もいなかったのだから。
 ただ今は、幸せなのだと思う。だって居場所があるのだから。

『だから、力なんて使わなくていいよ。結界の魔力補充もできたし、帰ろう』
「いいの?」
『うん。ドルフのおかげで今日は疲れなかったから、休憩しなくても帰れるよ』

 リーフェはそう言って立ち上がったが、ドルフは座り込んでしまった。

『まあ、そう言うな。せっかく来たんだ。聖域の空気に触れるのは俺たちにとってもいいことだしな』
『そう?』
『アイラもオリバーも、気持ちを整理したいだろう』

 なにを整理するというのだろう。
 リーフェには全然わからない。だけど、ドルフが動きそうにないので、隣に座って待つことにした。
 その間、アイラとオリバーは、大樹に触れたり、手を繋いでなにか話したりしている。

(仲がよくて、かわいいなぁ)

 生まれる前から加護を与えた双子は、個性が強く、性格的にはあまり似ていない。
 だけどふたりに共通するのは互いのことが大好きだということ。

(そういうとこが、いいんだよねぇ)

 成り行きで与えた加護だけれど、リーフェは力の及ぶ限り、ふたりのことは守ろうと思っている。
 やがて、大樹のあたりに淡い光が広がった。

「わっ、光った」
「成功したんじゃない?」

 リーフェの目に、懐かしい母親の姿が見える。そして寄り添うように立つ、濃いグレーの狼の姿も。聖獣である母親の方が大きくて、一見母親の方がオスに見える。

(へぇ。あれが父さんなんだ)

 リーフェの胸がとくんと高鳴る。
 べつに会いたいなんて思っていなかったけれど、会えたらそれはそれでうれしかったのかもしれない。

『私、元気だよ』

 リーフェがそれだけを言うと、二頭は優しくほほ笑み、そして消えた。

「えっ、もう消えちゃった」
「でも満足そうな顔をしてたよ」

 さすがオリバー。細かいところによく気づく。リーフェは頷いて、立ち上がった。

『母さんは心残りなんてないんだよ。だから早く帰ろうよ』
「えー」

 まだ名残惜しそうなアイラを無理やり背中に乗せて、リーフェは夜空に飛び立った。
 だってもう帰る場所があるのだ。なにを心配する必要があるというのか。

『また来るからいいの』

 大樹のあたりで、二頭が喜んでいるような、そんな気がした。


【Fin】