「私は、両親を守ろうともせず……自分だけっ……!」

 言葉が詰まり、涙が溢れる。
 どんなに理不尽な目に遭おうとも耐えてきた涙。両親のことを言われても、グッと耐えてきたはずだったのに。

「香夜……すまない、失礼するよ」

 いたわし気な声で名を呼び、燦人はそう断りを入れると香夜を自分の胸に引き寄せた。

「っ!?」
「自分を責めるな。十という(よわい)で力を制御出来る者はいない。その頃の貴女には、自分を守るのが精一杯だったというだけだよ」

 宥める様に背中を軽く叩きながら、燦人は優しく語り掛ける。
 その優しさが、溶け始めている心にするりと入り込んできた。

「うっ……ひっく、ああぁ……」

 優しさに甘えては駄目だ。
 そう思うのに、涙は止まってくれなくて……。
 これ以上心を許しては、後で傷つくことになるかもしれない。
 そう思うのに、燦人の優しさに縋ってしまう。
 これはもう手遅れなのかもしれない。
 心に作った壁はまるで役に立たず、燦人という存在を受け入れてしまっている。
 信じても良いのだろうかという迷いすらも、彼は甘い囁きと微笑みで溶かしてしまう。

 いずれ傷つくようなことになったとしても、後はもう自業自得なのだと……。
 そんな覚悟をするべきなのかもしれないと、香夜は泣きながら思ったのだった。