本日昼過ぎ、この月鬼の一族の里に大事なお客様が訪れる。
 この日の本で一番の力と勢力を持つ火鬼(ひおに)と呼ばれる鬼の一族。その若君が。

 何でも、嫁探しのためらしい。
 養母が飾り立てろと言う舞台で年頃の娘たちが舞い、若君はそれを見て決める。
 数代同じ一族の者と婚姻する火鬼の当主だが、それでは血が濃くなってしまうということで一、ニ代おきに別の一族から嫁取りをするそうだ。
 話を聞く限りでは前回は二番目に大きい勢力である水鬼(みずおに)から嫁を取ったらしく、他の一族では今回こそ我が一族の者をと血気盛んになっているらしい。
 しかも今回は勢力順ではなく真っ先にこの月鬼の里を選んだという。

 養母だけではなく一族の者すべてが期待するのも当然のことだった。

(まあ、私には関係ないけれど……)

 前に()れてきた一つに結んだ自分の髪を見ながら香夜はため息をつく。
 みすぼらしい灰色の髪。
 癖のない真っ直ぐな髪といえば少しは聞こえは良いが、手入れが行き届いていないそれはよく見るとかなり傷んでいる。

 月鬼は異端の鬼だ。元々地上にいた鬼と違って、月から降りてきた一族と言われている。
 その姿はまさに月。
 異端と呼ばれて弾かれたこともあったそうだが、どの一族よりも美しいとされたその姿は憧れも集めていた。