月花は愛され咲き誇る

「あ、ああ……。いえ、その願いはこちらとて望ましいもの。歓迎いたします、燦人どの」

 燦人の威厳と美しさに飲まれていた長だったが、長としての矜持を取り戻したのかすぐに立ち直っていた。
 その場で簡単に養母と鈴華を紹介する長に、燦人も供の者を紹介する。お付きの者である少年は(けい)というらしい。

「ご滞在中は私がお世話を任されております。さあ、まずはご案内いたしますね」

 紹介が終わるや否や、鈴華があからさまな喜色を浮かべてそう言った。
 腕を取るといった無礼は働かなかったが、確実に距離が近い。その様子に周囲の者の方が慌てた。
 特に長は、跡取り娘である鈴華が嫁に選ばれてしまうのではないかと冷や冷やしている様子だ。
 燦人は舞を見てから決めると言っていたのだから、少なくとも鈴華が舞わなければ選ばれることはないだろうに。

 燦人が所望した舞は月鬼の女なら誰もが教えられる伝統的なもの。蔑まれつつも、香夜ですらきちんと教えられた。
 その舞は月鬼の力の一端を垣間見せる。
 満月の夜舞台で舞うことで、舞台に描かれた紋様が光を放つのだ。
 年の瀬の満月の日に、毎年一番力のある娘が舞っているから香夜もその美しい様子を見たことはある。

 以前は養母が勤めていたその役割は、ここ数年で鈴華に代替わりしていた。
 そういう仕組みなのだから、まずは舞台で舞わなければ選ばれることすらないだろう。

(まあ、結界を張ることすら出来ない私には無縁の話よね)

 先導する鈴華に付いて行くように去って行く燦人を見送りながら、香夜は無感情にそう思った。