「まあ香夜ってば。そんな守り方じゃあ大事な着物が濡れてしまうわよ? 結界を張ればいいのに」

 香夜が結界を張れないことを分かっていながら、クスクスとそれは楽しそうに笑う鈴華。
 周囲の友人達も同調して笑い合う。
 いつもの嫌がらせだ。八年もたてば流石に慣れた。

 でも、それとは別に心はどんどん冷えていく。
 怒りも悲しみも凍りつかせ、壁を作る。

「さ、あと少しで日宮の若君が到着するわ。皆行きましょう?」

 ひとしきり楽しんだのか、満足した様子の鈴華は香夜を無視して皆に声を掛ける。
 去って行く足音が遠ざかり、気配が無くなってから香夜は安堵の息を吐く。
 すると一気に寒気が走り体が震えた。

「……早く着替えなきゃ」

 このままでは風邪を引くし、何より時間がない。
 香夜は寒さに耐えながらまた屋敷の隅にある自室へと急いだ。