だけど、陽菜だけは違って──。



『沢村くんは……虫が好きなの?』

『う、うん。ごめんね。読むの、嫌だったよね』

『ううん! とっても面白かったよ! 私も虫好きなの!』



照れくさそうに笑いながら、授業が始まるまでの間、ハナカマキリの話をしてくれた。


第一印象は、おとなしくて控えめ。

声も耳を澄まさないと聴き取れないくらい小さかったから、こんなにも明るくて生き生きした表情を見せるんだって、心底驚いた。


それから俺達は、朝読書の時間を使っておすすめの本を紹介し合うようになり、あっという間に意気投合。

席替えして席が離れても交流は続いた。


図書室で図鑑を読むのはもちろん、中庭で虫捕りしたり、花壇の花や植物を観察したり。

学年が上がると、自転車に乗って公園へ遊びに行ったり、お互いの家で勉強会を開いたり。


他にも友達はいたけれど、彼女の前では素の自分でいられて。気づいたら親友のような存在になっていた。


多分、初恋だったと思う。

当時は『新しい友達ができた』『自分を受け入れてもらえた』って喜びの気持ちが大きくて気づきにくかったけど、陽菜が休みの時は1日中無口だったから。