俺と陽菜は小学校からの同級生で、6年間同じクラスだった。

初めて話したのは小学1年生の2学期。席替えで隣同士になった時。



『はじめまして。和久井(わくい)です』

『こちらこそ、はじめまして。沢村です』



小1の会話とは思えないほど堅苦しい挨拶と深いお辞儀で始まった。


将来は親の病院を継ぐことが決められていた俺は、幼少期からテーブルマナーや礼儀作法を厳しく叩き込まれていた。


その影響もあり、話す時は基本的に敬語。

クラスメイトとはたまにタメ語で会話していたものの、名前だけは名字呼び。


家庭環境の違いも相まってか、周りから浮いた存在で、学校ではずっと独りぼっちだった。


そんなある日、朝読書の時間で本を交換し合うことになった。


彼女が貸してくれたのは、たんぽぽの綿毛が風に乗って冒険する話の本。

俺は秋の虫がコンサートに向けて練習に奮闘する話の本を貸した。


保育園の頃からの愛読書で、手垢でボロボロになるまで読み込んだお気に入りの1冊。

新しく買い替えた物を貸したのだが、女子は虫が苦手な人が多いと交換した時に気づいて。嫌な気分にさせてしまったのでは……と後悔していた。