「ヒューゴくん、正気に戻って……!」
『ガウウウウ! グウウウウ!』


 私の言葉はヒューゴくんに、ひとつも届かない。それでも逃げなくちゃ。私はなんとかヒューゴくんの牙から逃れようと、身をよじった。すると、カチャリと固い音が鳴り、私の手に冷たいものがふれた。


(ナイフだ! さっきギークが持ってたやつだわ!)


 私のことを殺したら、正気に戻ったヒューゴくんは絶対に傷つく。それに私が死んだら、卵くんにも会えなくなってしまう。


(それに、私まだ、竜王様に好きだって言ってない!)


 私はナイフを拾うと、すぐさま自分の手のひらを切りつけ、ヒューゴくんの牙と牙の間に自分の腕を勢いよく突っ込んだ。


(日本にはね、母は強しって言葉があるんだから! 絶対にヒューゴくんを正気に戻してみせる! そして竜王様に告白して、卵くんを産む! 絶対にあなたには渡さない!)


 手のひらからドクドクと血が出ているのがわかる。それが生温かいヒューゴくんの舌に、吸い込まれていっている。手の傷がズクンズクンと脈を打つように痛み出してつらいけど、私はもっと奥に手を差し込んだ。