僕の愛おしき憑かれた彼女

砂月は、俺から目を逸らすと、再び坂道を下ろうとする。明らかにおかしい。砂月が俺の目を見るのを明らかに嫌がったのがわかった。

「砂月帰るぞ」

俺は追いかけて、砂月の腕を強く引いた。

「やだ!」

砂月の細い腕が、力一杯拒絶する。

「砂月!」 

「……帰らない、皆んなに言わないで」

「言うだろ!おかしいだろ、砂月が目眩とか」

砂月は見た目よりも、人並みに健康だし体力もある。小さい時から、すぐ熱を出すのはいつも俺だった。

「彰大丈夫だから、お願いだから」

砂月が俺とようやく目を合わせると、懇願するように俺を見た。

「じゃあ理由言えよ……何があった?そんな目眩起こすほど」

昨日、一昨日と砂月の様子を振り返る。いつものように砂月の家で、夕飯を一緒に食べて、夜は、俺の部屋で少しパズルをしたりした程度で、いつも通りの砂月だった。

いや、俺の前でいつもと同じようにしてただけ、なのだろうか。

振り解かれないように、砂月の手首を強く握りしめた。

「……私の問題だから。あ……彰にも、言いたくない」

自分の眉に皺ができるのが分かった。

「ふざけんなよ!」

砂月に、大声で怒鳴ったのは初めてだった。

「困った時だけ、助けてって言ってくるくせに、自分の問題だからとか訳わかんねーだろ!」

これ以上言ったら駄目だと頭では分かっているのに止まらない。

「俺はお前の何だよ!保護者じゃねぇんだからさ、毎回毎回、迷惑かけられてる、俺の身にもなれよな!」

「……ごめん、なさい」

そこまで言ってようやく俺は、自身の口元を覆った。思ってもないことばかりを並べ立てて、気分は最悪だ。

砂月は、俯いてて顔は見えない。肩が僅かに震えている。多分泣いてるだろう。

俺は見ない振りをして、握りしめていた手首を乱暴に離した。 

「勝手にしろよ」

後に引けなくなった俺は、砂月に背を向けて坂道を下り始める。

ーーーーその時だった。

こちらに向かって長身の男が走ってくる。

「え、駿介?」

「おい、彰、お前ら遅すぎ、てゆーか桃が居なくなった」

「え?先輩と一緒だっただろ?」

「先輩が、トイレ行った隙に居なくなったらしいんだよ、ったく、ガキは」

だから嫌なんだよ、と駿介が吐き捨てた。

「先輩は?」

「さっき中広場に血相かえて来て、いま愛子と一緒に川の方見に行った。俺はアスレチックの方見てくるわ、そのあと一度テント戻る。ほんと、なんだよっ」

舌打ちをしながらも、ここまで桃を探して一生懸命走ってきたのだろう、駿介の額に汗が噴き出していた。