俺は、用意された、ソレを身につけると、寝癖をキチンと直して、髪を整える。

扉を開けるとすぐに、砂月が俺の胸元のポケットに黄色の花を差し込み、俺の全身をくまなく眺めてから、肩のほこりを払うと、満足気に頷いた。

「彰、似合ってる」 

「あんま見んなよ」

そっぽを向いて、耳まで赤くなった俺を見て、クスクスと笑うと、砂月は、おにぎりを差し出した。

「今日は?」

「お母さんに、お赤飯にしようかって言われたけど、彰の一番好きな、たらこにした」

「俺からしたら、明日から毎日、お赤飯な気分なんだけどな」 

「ばか」

二人で声を揃えて笑った。


階段を降りながら、おにぎりを猛ダッシュで胃袋に放り込み、玄関扉を開けると、俺は自転車の鍵を回した。砂月から荷物を取り上げて前カゴに乗せると、俺が先に跨った。

「ほら、後ろ乗れよ」

「うんっ」

「離すなよ」

「彰が嫌だっていっても、離してあげない」

あまりにも可愛い事を言う砂月に、押し黙った俺を眺めながら、砂月がケタケタと笑う。真っ赤な顔をした俺は、砂月の温もりを感じながら、勢いよく自転車を漕ぎ出した。 

いつもの通学路に早咲きの桜が、ちらほらと咲き始めたのを、砂月が嬉しそうに指差す。

「見て見て、彰、桜だよー」

「綺麗だな」

漕ぎながら、俺は、今から見れる、もっと綺麗なモノを想像して、口元がニヤけた。

「緊張してる?」 

背中越しに砂月が俺に聞く。

「しねーよ。砂月こそ泣くなよ」

腰に回された砂月の手が、返事の代わりに俺をぎゅっと締め付けた。

「そうやって……ちゃんと捕まっとけよ」

「うん、もう一生離れない」

砂月の返事に、俺の心は、もう何処にもいけないどころか、砂月でいっぱいに満たされて、幸せすぎて、もうどうにかなりそうだ。