吸血鬼と同じような動きをするの……?


「てめぇ……」

「離せっつってんだろ⁉」

 叫び、忍野君は手に力を込める。


「っぐ!」

 岸の顔からは余裕の笑みがなくなり、私を掴む手の力が弱まる。

 外せる。
 そう思った瞬間に私は自分の腕を引いて岸の手から逃れた。

「香月、俺の後ろに」

 忍野君の言葉に、状況が理解出来ないまでも従う。

 少なくとも忍野君は助けに来てくれたみたいだったから。


「てめぇ、人間じゃねぇのか? 何で突然吸血鬼の気配になった?」

 得体の知れないものを見るように岸が警戒している。


 やっぱり吸血鬼なんだ。

 でもどうして?

 それに何だか……美形になってる?


 さっき何かを飲んだ後辺りから、忍野君の雰囲気が変わった。

 平々凡々といった親しみのある雰囲気だったのに、突然美しさが増した気がする。


 顔の作りが変わったわけじゃないはずだ。

 今の顔を見ても彼が忍野君だと分かるから。

 でも、ぼやけた印象だったまつ毛や唇の形がハッキリして、美形度が上がっている。


 こんな突然の変化、人間じゃあり得ない。


「……俺は……俺は、忍野(おしの)の吸血鬼」

 慎重に、忍野君は言葉を紡ぐ。

 ゆっくりと名乗りを上げた。