聞き返された質問に、私は答えることが出来ない。

 だって、真人さんから聞かされていたのは多血症の薬だということだけだ。

 最後の手段として飲むべき、たった一つの薬だって。


 答えられないでいる私に、大橋さんは嬉しそうに説明する。


「これはね、血の結晶と呼ばれるものだよ。吸血鬼が一生に一度だけ作り出せる、自分の分身とも言える結晶だ」

「え……?」


 吸血鬼が作り出せる、結晶?

 今の今まで薬だと思っていたから、それが吸血鬼に関係あるものだとは思わなかった。


「血の結晶は主に契約に使われる。仕えたいと思う主人に捧げる《主従の誓い》、奪い取って無理やり従わせる《隷属の契約》、相手との血の繋がりを強くして仮初めの“唯一”を作り出す《血婚の儀式》」


 大橋さんは血の結晶の使い方を一つ一つ説明してから、「ほら、薬なわけがないだろう?」と笑う。