ルーカスくんの一件はしばらくの間、テレビで取り上げられるほどの大騒ぎとなった。

アンドロイドが人間を庇う事例はそこまで珍しくない。

メディアが、そして世間が注目したのは、ルーカスくんの製造目的だった。



────アンドロイドは人間に恋をすることができるのか?



その研究のため、人間に恋をするためだけに作られたアンドロイド。


個体識別名──アダム。


アダムは自分がアンドロイドであることを気付かないように設定され、そうして人間社会へと放りこまれた。

与えられた人間名は────成瀬・L・ルーカス。



前代未聞のそのアンドロイドは世間を大いに騒がせた。

あのとき動画を撮っていた人が何人もいて、それがテレビの中で何度も何度も再生された。



わたしを含む生徒たちの顔はぼんやりと隠されている。

だけどルーカスくんや他のアンドロイドの顔は、はっきりとそこに映し出されていて。



わたしはもうずっと、テレビを付けていない。





休日、静かなアパートの部屋。

キッチンで朝ごはんを作っていたその後ろ姿に声をかけた。



「……ノア」

「ん?」

「どっか行こっか。いまから」


それまで黙々と料理をしていたノアが、エプロンをつけたままこちらを向いた。



「どこでもいいよ。ノアの行きたいところに行こう」


しばらく黙っていたノアは、口をひらいた。