30分も中を見て回ってると何事も無かったかのように僕達は美術品について語り合った。
勿論僕の中でクロのことをあんな風に言われたことは決して無くならないし、彼女を許したわけでもない。
だけど僕は彼女と険悪な雰囲気の中一緒に居ることも耐えられないから、このときだけはクロのことを水に流してやろうと思ったのだ。
「あ、この人の絵。確か京介くんが好きな人の絵よね?」
僕が好きな画家の絵の前で彼女は立ち止まり、そう言った。
「そうだね。この人みたいな画家になりたいよ。」
僕は無意識にそう言って、絵をじっと見つめる。
「え…?」
すると彼女は首を傾げる。
「京介くんって、画家になろうと思ってるの?」
彼女は、まさかそんなこと言わないわよねとでも言いたげな顔でそう問いかけてくる。



