「あの……何でしょうか。こんなめでたい日に」

 私は目の前に立ちはだかった乱入者を見上げながら問い掛けるが、乱入者はただじっと私を見下ろすだけであった。

(この人、誰だろう……なんか、どこかで見たことなるような、ないような……)

 上を向いているからか、そろそろ首が痛くなってきた。
 私より頭一つ分以上も、背が異なる大柄の男。
 服装は黒の上下に、黒の靴、それと合わせて筋骨隆々の大柄な体型。まるで葬儀屋かボディーガードか、そうじゃなければ熊のようだった。
 そんな熊のような乱入者は、私の言葉に一瞬だけ眉を上げると、私の腕を掴んだのだった。

「こんな男は止めて、俺のところに来い!」
「ですから、貴方は、あの……」
「忘れたのか!? おれと交わした約束を!」

 乱入者の言葉に式場内がどよめく。これには芳樹さんも口をあんぐりと開け、今まで私達を見守っていた年配の神父も「オーマイゴッド!」と叫んだのだった。
 私は背中に冷や汗を掻きながら、言葉を選んだのだった。

「や、約束とは、何でしたっけ……」
「本当に忘れてしまったんだな」
「忘れたというような、忘れていないような……」
「いいから、来い!」

 乱入者に急に腕を引かれて、私の頭から白いベールが落下した。

「お、面白くなってきたな! いいぞいいぞ!」
「兄ちゃんやれやれ!」
「み、みどりさん……」
「みどり!」

 参列席から面白がる声が聞こえてくる中、これが余興じゃないとわかっている芳樹さんや両親の心配そうな声が聞こえてくる。そんな私の両親を始めとする親族が座る参列席の中から、私と同じ顔のまるまるとした女性が笑いながら平謝りをしていた。
 その顔に、私はふつふつと怒りが込みあがってきたのだった。

(絶対に許さないから……みどり(・・・)

 双子の姉の面白がるような顔を睨みつけながら、私は乱入者に連れられて式場を後にしたのだった。

「お待ち下さい! お客様!」
「困ります! 警察を呼びますよ」