甘い毒に溺れ堕ちて

視線を地面に落として呼吸を整えていると、顔を覗き込まれた。

ドキッとした直後、彼の手が私の額にそっと触れる。


「えっ、な、何?」

「検温。体温計ないから俺の体感計測だけど」



自分の額にも手を当てて比べっこしている。


あぁもう。どうして今日に限って……。

いつもならすんなりあしらえるのに。真剣な表情だから突き放しづらい。



「俺とそんな変わんないなー。平熱低いほう?」

「いや全然っ! 急いで来たから、暑くて……」

「寝坊したの?」

「違うよ! ちょっと、色々とバタバタしてて、時間見るの忘れちゃって……」

「へー、そうなんだ」



片方だけ口角を上げた意地悪な表情。

声を張り上げた反面、額の手は優しくどけて、速歩きで駐輪場を後にする。


「真彩ちゃんもうっかりすることあるんだね」


飼い主に懐くペットのように後ろを着いてくる藍くん。

行き先は同じ昇降口だから当然なのだけれど……。