甘い毒に溺れ堕ちて

ぐるぐると肩を回しながら藍くんがコートに入場。

所定の位置につくと、パンパンッと自身の頬を叩き、「お願いしまーす!」と叫んでラケットを構えた。



「では行きますよー」



先生の呼びかけでシャトルが打ち上がった。

飛んできたシャトルをコートに返す彼を静かに見守る。


つくづく感じるけど、藍くんって、女の子が憧れる要素をコンプリートしてるよね。


髪の毛はサラサラでなめらかだし、何気にまつ毛長いし、横顔も綺麗だし。

華奢で手足も長くて、でも骨格はしっかりしてて、程よく筋肉がついていて……。



「……なんか、苦しそうじゃない?」

「うん……」



茉耶に耳打ちされ、心臓が不穏な音を立てる。


俊敏に動き回っているけれど、顔色は今朝と同じ。

時折眉をひそめては、はぁっはぁっと息切れを起こしている。



「おい、あれ大丈夫か?」

「めちゃめちゃふらついてんじゃん」

「1回止めたほうがいいんじゃね?」



後ろの男子からも動揺の声が上がり、あたりが騒然とし始める。


すると、次の瞬間──。



「ゔっ……」



スマッシュを打った反動でバランスを崩した彼が、床に尻もちをついた。



「ごめんねー! 大丈夫ー?」

「はいっ。だいじょう……ぶ、ですっ」



先生に返事をして立ち上がるも、額を抑えており、膝も曲がったまま。

おぼつかない足取りでコートを出る彼に、体育委員の子が慌てて駆けつける。

そして先生に事情を話すと、彼は藍くんを支えながら体育館を後にした。