-----あなたに、お会いしたいです。



 そう、詩乃守人にメールを送ってから、
一週間が過ぎた。

 毎朝、毎晩。
 祈るような想いでメールの受信ボックスを
開いては、不安ばかりが募ってゆく日々。

 いつもなら、感想を送った数日後には必ず
返事が届いていた。だから、一週間経っても
返事が来ないのは、初めてだった。

 もしかしたら、体調を崩していたり、仕事
が忙しかったりしているのかも知れない、と、
楽観的に考えてみても、メールの内容を思い
返せば、やはり、心の中はどんどん散らかって
しまう。あんなメール、送らなければ良かった。

 蛍里はあの日、彼にメールを送ったことを
後悔し始めていた。






 「これ、コピーお願いできますか?」

 蛍里の背後、専務室の方から声が聴こえ、
反射的に振り返ったのは、その事で塞ぎ込んで
いた時だった。

 けれど、専務の言葉は自分に向けられたもの
ではなく、彼の前には結子が立っている。

 そのこと自体、めずらしいことではあっても、
別段、気にすることでもなかった。

 蛍里が周囲の目を気にするようになってから
は、結子や他の社員が専務に呼ばれることが
増えていたからだ。

 ところが、振り返った瞬間、専務と重なった
はずの眼差しは、すぐに外されてしまった。



-----目を逸らされた。



 直感的にそう感じて、蛍里はパソコンに
向き直る。

 どうしてだろう?
 蛍里はパソコンの画面を見つめながら、内心、
首を傾げた。けれど、その時は気のせいだろう、
と、すぐに気を取り直した。

 専務にだって虫の居所が悪い日があるに
違いない、と。にも関わらず、それからも専務
に避けられていると、そう感じることが続いた。

 目が合わないのだ。
 廊下ですれ違っても、フロア内で顔を合わせ
ても、専務の視界にはまるで自分が存在して
いない。蛍里は自分が何か失礼なことでもして
しまっただろうか?と、幾度も記憶を辿った。

 が、思い当たる節は見つからない。
 
 何しろ、最後に蛍里が専務と会話をしたのは、
あの、地震の日だったからだ。

 翌日からはまた、事務的なやり取りしかして
いない。それでも、こんな風に、彼が目を逸ら
すことはなかった。

 蛍里は、何だか泣きたい気分だった。

 専務のことを目で追ってはいけないと思っ
ていても、視界に彼の姿が映れば、どうした
って追ってしまう。

 そして、やっと目が合っても逸らされてし
まう。その度に、胸はきりりと痛んで、痛んで、
仕方なかった。

 だから、嫌でも気付かされる。
 なぜ、こんなにも胸が痛むのか。