絃ちゃんを危険な目に遭わせないためにも、そして周りの目、すべてのものから守るために。

それなのに父親であるこの男が口に出した言葉に、嘘偽りもなかった。



「おい…まさか…、」



あーあ、なんで絃ちゃん戻っちゃうかなぁ…。

こんなところ、絃ちゃんが一番見ておきたい場面だっただろうに。


本当に、タイミング悪いよね2人って。


だから俺が絃ちゃんの分までしっかり見ておいてあげよう。



「おやっさん、俺が言う」



その男は一歩前へと出た。


女にも男にも、組の者にも、佐伯のおねーさんにも、駆けて行った少女にも聞こえるように。

曇りない眼差しで、清々しい顔をして。




「天鬼 絃は俺の───…婚約者だ。」




ここで、天鬼と那岐は繋がったのだ。


かつて共に並んでいた2つの大きな組織は対立するようになってしまって。

そして忘れもしないあの日、那岐は終わったものだと思っていたが。



「あ、絃織さん待って!」



ざわめきの中で会場を出ようとするその背中を俺は止めた。

「なんだよ」と、早く少女の元へ行きたいのか、苛立ちさえ見える返事。


まぁ絃ちゃんには言うなって言われてたけど?それでも俺ってほら、嘘とかつけない性格だし?



「ごめん絃織さん。俺、前に絃ちゃんのすっごいエロい下着姿見ちゃった」


「………は?」


「いやー、あのね、事故だったんだよ?まぁ確かに出るとこ出てないけど、
それ以外は意外と……まぁまぁそんなに怒らないでってば」



案の定、すさまじい形相をしながら胸ぐらを掴まれた。