「……私、シュタルクヘルト家にいた頃、この髪色について散々悪口を言われました。変な色をしていて気持ち悪いって……」
「変な色って……綺麗な色じゃないか。あっちが妬んでいるだけだ。気にするな」
「でも、シュタルクヘルト家に住んでいた頃は、同じ髪色の人を見たことがなくて……。
外に出ても、道行く人はみんな茶色や黒色の髪色や瞳の色をしているので、自分だけ仲間外れみたいで……。疎外感を感じていたんです」
色素の薄いペルフェクト人に対して、シュタルクヘルト人は色素の濃い者が多い。
茶色や黒色系の髪色や瞳の色が大半である。
ダークブラウン色の髪であるオルキデアにも、おそらくシュタルクヘルト人の血が流れているのだろう。
「街に出ても、茶色や褐色、黒色や紺色の人ばかり。たまに金髪の人がいるくらいで、私と同じ髪色の人は見つからなかったです」
「そうか」
「だから、さっきのお母さんに北部地域の人と言われて、ちょっと嬉しかったです。
ここには、ちゃんと仲間がいるんだってわかって」
藤色の毛先を弄りながら、アリーシャは続ける。
「髪を染めればいいと思いましたが、そんなお金はなくて……。それに髪を染めてしまったら、今度こそ母との繋がりが完全に無くなってしまうような気がして……。
どうすることも出来ないこの色が……紫色が、ずっと嫌いでした……」
何も言えず、ただただ切ない顔で話す姿を見つめていると、不意に振り向いた愛妻と目が合う。
「でも、今は好きです。だって、貴方に綺麗って言ってもらえるから」
この不意打ちには、オルキデアも虚をつかれた。
濃い紫色の目を大きく見開き、胸が一段と高鳴った。
寒風も感じないくらい、身体の中が内側から熱くなっていく。
「それに、オルキデア様の瞳も紫色です。大好きな人の瞳の色です。……今は大好きなんです」
「嬉しいものだな。お前にそう言ってもらえて」
アリーシャは小さく笑うと、自分のカバンを開けて何かを探しているようだった。
やがて目的の物を見つけたのか、鞄の中からそうっと取り出したのだった。
「本当はもっと上手なものを作って、綺麗にラッピングもしたかったんですが、あまり凝ってしまうと受け取ってもらえないかと思ったので……」
「何を作ったんだ?」
「作ったと言うよりは、縫ったと言えばいいのでしょうか……。
昨日、ようやく渡せるものが完成したんです。ささやかですが……お礼です」
アリーシャが差し出してきたのは、皺一つない真っ白な布であった。
受け取りながら、「これは?」と尋ねる。
「ハンカチです。オルキデア様がクシャースラ様と出掛けている間に、セシリアさんから刺繍を教わったので、昨日までずっと縫っていました」
「クシャースラと出掛けて……ああ、あの時か」
どうやら、クシャースラに結婚の報告をして、ティシュトリアの面会に行っている間に、セシリアと刺繍をしていたらしい。
ハンカチを広げると、布地の右下に薄紫色の花の刺繍と、紺色の糸でオルキデアのイニシャルである「O」が縫われていたのだった。
「変な色って……綺麗な色じゃないか。あっちが妬んでいるだけだ。気にするな」
「でも、シュタルクヘルト家に住んでいた頃は、同じ髪色の人を見たことがなくて……。
外に出ても、道行く人はみんな茶色や黒色の髪色や瞳の色をしているので、自分だけ仲間外れみたいで……。疎外感を感じていたんです」
色素の薄いペルフェクト人に対して、シュタルクヘルト人は色素の濃い者が多い。
茶色や黒色系の髪色や瞳の色が大半である。
ダークブラウン色の髪であるオルキデアにも、おそらくシュタルクヘルト人の血が流れているのだろう。
「街に出ても、茶色や褐色、黒色や紺色の人ばかり。たまに金髪の人がいるくらいで、私と同じ髪色の人は見つからなかったです」
「そうか」
「だから、さっきのお母さんに北部地域の人と言われて、ちょっと嬉しかったです。
ここには、ちゃんと仲間がいるんだってわかって」
藤色の毛先を弄りながら、アリーシャは続ける。
「髪を染めればいいと思いましたが、そんなお金はなくて……。それに髪を染めてしまったら、今度こそ母との繋がりが完全に無くなってしまうような気がして……。
どうすることも出来ないこの色が……紫色が、ずっと嫌いでした……」
何も言えず、ただただ切ない顔で話す姿を見つめていると、不意に振り向いた愛妻と目が合う。
「でも、今は好きです。だって、貴方に綺麗って言ってもらえるから」
この不意打ちには、オルキデアも虚をつかれた。
濃い紫色の目を大きく見開き、胸が一段と高鳴った。
寒風も感じないくらい、身体の中が内側から熱くなっていく。
「それに、オルキデア様の瞳も紫色です。大好きな人の瞳の色です。……今は大好きなんです」
「嬉しいものだな。お前にそう言ってもらえて」
アリーシャは小さく笑うと、自分のカバンを開けて何かを探しているようだった。
やがて目的の物を見つけたのか、鞄の中からそうっと取り出したのだった。
「本当はもっと上手なものを作って、綺麗にラッピングもしたかったんですが、あまり凝ってしまうと受け取ってもらえないかと思ったので……」
「何を作ったんだ?」
「作ったと言うよりは、縫ったと言えばいいのでしょうか……。
昨日、ようやく渡せるものが完成したんです。ささやかですが……お礼です」
アリーシャが差し出してきたのは、皺一つない真っ白な布であった。
受け取りながら、「これは?」と尋ねる。
「ハンカチです。オルキデア様がクシャースラ様と出掛けている間に、セシリアさんから刺繍を教わったので、昨日までずっと縫っていました」
「クシャースラと出掛けて……ああ、あの時か」
どうやら、クシャースラに結婚の報告をして、ティシュトリアの面会に行っている間に、セシリアと刺繍をしていたらしい。
ハンカチを広げると、布地の右下に薄紫色の花の刺繍と、紺色の糸でオルキデアのイニシャルである「O」が縫われていたのだった。



