アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)

「ん? レシピ?」
「何か思い出したか?」
「そういえば、セシリアと電話していた時、何かのレシピを書いていたな。もしかして、それが弁当のレシピだったんじゃないか?」

 今朝、弁当を渡してきた際も「セシリアから作り方を教わった」と言っていた。
 おそらく、昨晩のセシリアとの電話がそうだったのだろう。
 その話をすると、クシャースラは指を鳴らしながら、「それだ!」と声を上げる。

「きっと、そうだ。ただアリーシャ嬢はともかく、なんでセシリアまで同じにしたんだ……?」
「それは……本人に聞いてみないとな」

 気を取り直して、愛妻手製の弁当に手を伸ばす。
 新鮮な葉物野菜と厚さがバラバラのハムを挟み、バターと練り辛子を内側に塗った定番のサンドイッチを始め、プリプリの海老と白いタルタルソースや、寒い時期にぴったりのジンジャーが香る豚肉を挟んだサンドイッチが、弁当箱を半分以上占めていた。
 ややサイズにバラつきはあるが、どれも食べやすい大きさに切られていたのだった。
 おかずは定番の卵焼き、唐揚げ、温野菜で彩りと栄養バランスを加え、デザートにフルーツも入っていた。
 生焼け気味の卵焼きと、焦げ目のついた唐揚げが、弁当作りに不慣れな新妻らしさを感じて、愛おしい気持ちになった。

「オルキデアの弁当も美味しそうだな」
「やらないからな」
「まだ何も言ってない!」

 そんな親友が食べる弁当は、さすが結婚四年目と言えばいいのか、士官食堂の食事以上に食力を唆られる出来栄えをしていた。
 弁当包みの外側は無地の水色だったが、内側は花が好きなセシリアらしい、水色に緑の花柄であった。

「遠回しにセシリアの弁当に不満があるという様な言い方をするな。怒られるぞ」
「そんなんじゃない。全く……セシリアが誤解する様なことを言わないでくれ」

 不貞腐れてハムと葉物野菜のサンドイッチを咥えた親友を微笑ましく思いつつ、フォークで卵焼きを刺すと口に運ぶ。
 すると、口に入れた瞬間、「うっ……!」と言いそうになったのだった。

(これは……塩辛いな)

 口直しにコーヒーを飲むと、クシャースラにバレない程度にそっと息をつく。
 
(塩の分量を間違えたのか……?)

 不恰好ながらも、サンドイッチや他のおかずは何も味に問題がない。
 何故か卵焼きだけが、異常に塩辛かった。

 せっかく作ってくれた弁当を残す訳にもいかず、コーヒーを飲みながら残りの卵焼きを食べていると、傍らの親友もフォークに刺した卵焼きを食べながら、卵焼きについて語り出したのだった。

「しっかし、卵焼きが甘いなら、フルーツは要らないんじゃないか。おれからすれば、甘い卵焼きは充分、デザートになるんだよな……」

 クシャースラの言葉に傍らを振り向く。

「甘い卵焼きなのか……?」
「そう。いつも甘い卵焼きなんだが……お前のは違うのか?」

 卵焼きを食べながら尋ねるクシャースラに、「いや」とだけ返す。

 セシリアからレシピを教わったなら、味付けはクシャースラと同じになるはず。
 砂糖と塩を取り間違えたか、アリーシャが独自のアレンジを加えていない限りは。

 そんなことを考えながら弁当を食べていると、「そういや」と思い出したようにクシャースラが口を開く。