アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)

「正式にアリーシャと結婚することにした」

 隠れ家の様な二人のお気に入りのカフェに入って、空いていたボックス席に座ったオルキデアは、二人分のコーヒーを頼むなり、向かいに座る親友にそう告げた。

「そうか」

 けれども、クシャースラはただ端的に返しただけであった。

「驚かないんだな」
「驚くも何も、最初からこうなるって、おれはわかっていたからな」
「最初から?」
「お前さんは気付いていなかったかもしれんが、今回は手元に置いておくくらい、彼女を気に入っていただろう」

 コーヒーが届けられると、一度、話を切る。
 このお店のコーヒーは挽き立ての豆が香る濃い目の味ながら、注文してからすぐに届けられる。
 提供されるまでの時間だけでなく、値段も安価であり、多忙な身である軍人になってからは、こういった店は非常に重宝していた。

 また軍部近くの店ではあるが、軍部からここに来るまでに、人気のカフェが複数軒あり、この店は知る人ぞ知る店となっていた。
 退役した元軍人の店主が営むので、万が一、軍事機密に関する話が出ても、口を固くしてくれる。
 それもあって、秘密裏に話したい時には丁度いい店でもあった。

 コーヒーを一口飲んで、変わらぬ味に安堵すると、オルキデアは口を開く。

「最初からは気に入っていないさ。最初は監視と保護が目的だったからな。なんせ、アリーシャは『訳あり』娘だ」

 アリーシャと出会ったばかりの頃、アリーシャは記憶をなくしており、更には女性捕虜ということもあって、その身を狙われていた。
 あのまま放っておいたら、いずれは餌食となっていただろう。

 新聞で正体が判明してからは、その身が政治や軍事的な道具にならないように、監視をする必要があった。
 ただそれだけだった。他に理由はない。

「いーや。それだけじゃない。お前さんがアリーシャ嬢を特別扱いしたのは、それだけが理由じゃない」
「それじゃあ、どんな理由なんだ?」
「ズバリ、一目惚れだろう?」

 その言葉にオルキデアは咽せてしまった。コーヒーを飲んでいる時じゃなくて良かった。
 そうじゃなければ、今頃、吹き出しているところだった。

「一目惚れだと……?」
「そうだろう。これまでだって、お前さんは『訳あり』の捕虜や、女性捕虜を扱ってきただろう。
 それなのに、どうしてかアリーシャ嬢だけ特別に扱っている。これはどう見ても、一目惚れに違いない」
「馬鹿を言うな。そんなはずは……」

 ない、とは言い切れないことに、オルキデアは気づく。

 最初にアリーシャを見た時、政治的にアリーシャが利用されないように、自分側に取り込もうか考えたことがあった。
 シュタルクヘルトの捕虜から、ペルフェクトのーーオルキデアの身内へと。

 今思えば、あの時から、アリーシャに気があったのだろうか。
 誰にも利用されないように、自分だけのものにしようと考えた、あの時から……。

「そんなはずは、なんだって?」

 半分面白がって続きを促すクシャースラに、「何でもない」と返して、コーヒーに口をつける。

「とにかく、話はそれだけだ」
「本当に?」
「どういう意味だ?」
「他にも話すことがあるんじゃないか。例えば、母親のこととか」