アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)

 最初は互いに背を向け合って寝ていたが、やがてオルキデアは気になって隣を振り向く。
 暗闇の中で目を凝らすと、アリーシャは遠慮がちにベッドの端に寄って、背を向けて眠っていたのだった。

「アリーシャ」

 小声で呼びかけると肩が揺れた。どうやら、まだ眠っていなかったようだ。

「そんなに端に寄ったら、寝返りを打った時に下に落ちるだろう。もっとこっちに来い」

 オルキデアの声に答えるように、背を向けたまま、アリーシャは近づいてくる。
 やがて、オルキデアの身体にぶつかったところで、「すみません」と謝られる。

「いや。いい。それより寒くはないか。もう少しこっちに寄った方が……」
「大丈夫です。子供じゃないので、それくらいは自分でもわかります」
「子供としてじゃない。一人の女として心配なんだ」

 藤色の頭が揺れて、アリーシャが振り向く。
 やがて、消え入るような声で「すみません」と謝ってきたのだった。

「そんなに謝まるな。遠慮する必要は無いと言っただろう」
「……やっぱり、自分の部屋で寝ますね。私が居たら邪魔になってしまうので」

 ベッドから出ようとするアリーシャの腕を掴み、「待て」と咄嗟に言う。

「気分を害したならすまない。だが、君を邪魔と思った訳じゃないんだ」
「それなら、どうして……?」
「……もっと、近くに来て欲しいんだ。俺の手の届くところに」

 アリーシャに近づくと、細身の腰に腕を回す。
 背を向けるアリーシャを抱き寄せると、甘い香りがしたのだった。

「温かいな。それに甘い匂いがする」

 サラサラの藤色の髪を一房取って鼻に近づけると、花の様に甘く華やかな香りがした。

「や、止めて下さい! 恥ずかしいです……」

 アリーシャに言われて、「すまない」と髪を離す。

「あ、甘い匂いがするのは、セシリアさんから頂いたシャンプーの匂いです!」

 言われてみれば、以前も同じような匂いを嗅いだ事があるような気がした。
 あれは執務室に備え付けの浴室だったか。

「石鹸だけじゃなくて、シャンプーも貰っていたのか?」
「石鹸と同じ会社から発売している同じ香りのシャンプーらしいです。浴室にありました」
「ああ。どおりで同じ匂いがすると思った」

 ソファーに並んでお茶を飲んでいる時は気づかなかったが、先程から髪だけではなく、アリーシャの身体からも同じ匂いがしていた。

「アリーシャは温かいな。このまま抱いて眠りたくなる」
「そうですか?」
「ああ。もう少しすると寒くなるからな。そうしたら、こうして寝るのもいいかもしれん」
「ペルフェクトの冬って寒いんですか?」
「この辺りは雪が少ない分、北から冷たい風が入る。寒波の影響を受けやすいんだ」
「じゃあ、シュタルクヘルトより寒いかもしれないんですね」
「俺はシュタルクヘルトの冬をあまり経験してないからわからないが……おそらくは」

 アリーシャの頭に顔を埋めながら、オルキデアはそっと目を閉じる。

「あの、オルキデア様……」
「どうした?」
「私、誰かとこうして寝るのが初めてなんです。母は仕事で夜はいませんし、父は私に興味はなかったので……」
「そうだったのか?」
「だからでしょうか。こうして誰かの温もりを感じていると、なんだか安心できるんです。……今までは、一人で過ごす夜が不安で、寂しくて」