アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)

「使用人は雇っていないので、自分でやらなければならない事も多く、大変だとは思いますが……」
「それなら大丈夫です。シュタルクヘルト(あっち)でもやっていたので」
「それは頼もしい。既にご存知かと思いますが、アイツは家事をやらないですし、たまに屋敷に帰ってきても出不精なので、アリーシャ嬢が気にかけてくれると助かります」

 二人が話していると、ラカイユが「少将」と助手席の窓を開けて話しかけてくる。

「そろそろ、病院に向かいます」
「そうだったな。二人を頼む」
「あの、ラカイユさん。ありがとうございました!」
「……お幸せに。アリーシャ嬢」

 頭を下げるアリーシャに微笑を返すと、ラカイユは窓を閉める。
 そうして、車を走らせて屋敷から遠ざかって行ったのだった。

「ラカイユさんが向かった病院って……」
「オルキデアたちが向かった病院です」

 アルフェラッツに送ってもらうオルキデアたちだったが、帰りはバラバラに病院から出て来るのと、万が一、追跡されていた場合に備えて、ラカイユを待機させる事にした。

 二人が考えていた作戦として、最初、病院にセシリアを送ったオルキデアはアルフェラッツの車で去っていく。
 それから時間を開けて、中で着替えたセシリアが出てくる。
 セシリアはそのまま病院を出てもらうが、途中、「たまたま」アルフェラッツが運転する車に乗っていたオルキデアと「たまたま」出会う。
 オルキデアに誘われて、アルフェラッツが運転する車にセシリアも同乗して、二人はオルキデアの屋敷に戻って来る。

 もし、他の兵の車に尾行されていた時は、途中で合流しないで、セシリアは病院の敷地の外で待機しているラカイユの車に乗る。
 それぞれ別の車に乗ったまま、オルキデアの屋敷で合流するという計画だった。

「尾行の心配は無いとは思いますが、念には念を入れてです。不審感を持たれない為にも」
「そうなんですね……」
「さあ、気を取り直して、おれたちは屋敷に入りましょう。
 アリーシャ嬢の荷物も運び込んで、住めるように部屋も整えましたが、必要なものがあれば言って下さい。おれが買いに行くので」
「ありがとうございます。クシャースラ様」

 白い石造りの大きな門を潜り抜けて、綺麗に整えられた庭を抜けると、二人は玄関にやってくる。
 クシャースラが玄関扉に手を掛けるが、鍵が閉まっているようで、ガチャガチャと音を立てるだけだった。

「しまった。鍵を借りてこなかった……。少しお待ち頂けますか。中から開けてもらうので……」

 扉の前で慌てるクシャースラに、何か閃いたのか、アリーシャはドレスのポケットに手を入れる。

「あの……。さっき、これをオルキデア様からいただいたんです」

 ポケットから取り出した紫色のリボンが結ばれた鍵を見せると、鍵穴に入れる。
 すると、内側からカチャリと解除音が聞こえてきて、鍵が開いたのだった。

「アリーシャ嬢が鍵を持っていたんですね」

 関心するクシャースラに「関心する事でも無いですよ」と、アリーシャは苦笑する。

「いいえ。アイツが鍵を渡したんです。やはり、相当気に入られているようですね」
「そんな事は無いです……」

 オルキデアに限らず、自宅の鍵というのは、そうそう信頼出来る相手でなければ、渡さないだろう。

 ーー十年来の付き合いのあるおれでさえ、鍵を渡されていないんだが。

 頬をほんのり染めて、消え入りそうな声で否定する親友の仮妻を、微笑ましい気持ちで見つめる。
 扉を開けると、アリーシャを先導しながら中に入ったのだった。