アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)

 我ながら、なんて捻りのない陳腐な告白だろうと思う。
 けれども、どんな言葉で飾るよりも、自分のありのままの気持ちを伝えたかった。

 そんな、セシリアからの返事は 「すみません」であった。ーーある程度、予測はしていたが、やはりショックではあった。

「オウェングス様の気持ちは嬉しいです。ですが、私は結婚する訳にはいかないのです」
「理由を伺っても?」
 顔を上げると、「我が家には」とセシリアが話し出す。

「歳の離れた弟が二人居ます。弟たちをいい学校に行かせる為にも、私も働かなければなりません」
「それに……」とセシリアは俯く。

「うちは貴族ですが、今は多額の借金があります。私と結婚しても、持参金は用意出来ないと思います」
「持参金なら必要ありません。なんなら、身一つで嫁いで頂いて構いません。借金も結納金として、おれが持ちます」

 コーンウォール家の借金については、既にセシリアの父親から聞いていた。
 その話をセシリアに伝えると、「父まで……」と呟いたのだった。

「おれは貴族ではなく平民ですが、借金を返済出来るくらいの蓄えはあります。勿論、セシリアさんが身分を気にされないなら、の話しですが」

 クシャースラにはお金を使うような趣味が無いので、軍人として得た収入は一部は実家に仕送りし、残りはずっと貯金していた。
 また戦場で武勲を立てれば、戦勝金や報奨金も貰えた。それもまた、仕送りと貯金に回していたのだった。
 それを使えば、コーンウォール家の借金をかなり返済出来るはずだ。

「身分は気にしません。貴族でも、平民でも」
 プライドの高い貴族の中には、平民の力を借り、軍人でも平民出身者に嫁ぐのを気にする者がいる。
 それもクシャースラが気にしていたが、セシリアは大丈夫なようだった。

「それなら……!」
「ですが、すみません。やっぱり、オウェングス様にご迷惑を掛ける訳にはいきません。これは我が家の問題ですので……」
 俯くセシリアに「分かりました」と、クシャースラは返す。

「結婚はまだ考えなくてもいいです。ですが、貴女が好きな気持ちは本当です。貴女の身体が心配なのも」
「私の身体が?」
「今の働き方を続けていれば近い将来、身体を壊します。そうなれば、セシリアさんが悲しむだけではありません。ご両親やご兄弟……おれだって悲しいです」
「オウェングス様……」
 セシリアの肩をクシャースラは掴む。

「おれとの結婚は嫌でも、恋人にはなって下さい。……今より近くで、貴女の力になりたいんです」

 知り合いではなく、恋人になれば、クシャースラは今よりもセシリアに近い関係になれる。
 そうすれば、セシリアの力になる事が出来るだろう。
 結婚はおいおい説得すればいい。今はセシリアが倒れないように支えるのが先決だった。

「オウェングス様と恋人に……?」
「嫌なら無理強いはしません。ただ、恋人じゃなくても、これまで通り友人として関係を続けたいです!」
「いいえ! そういう意味で言ったんじゃないんです!」
 セシリアは何度も首を振る。

「私は学校を卒業したら、ずっと働くと思っていたので……恋人は一生出来ないと思っていました」
「それでは……!」
「恋人らしい事は何も出来ないかもしれませんが……。それでも良ければ……」
「あ、ありがとうございます! セシリアさん!」