アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)

「それは、どういう事ですか!?」
 クシャースラが父親に詰め寄ると、「アンタも気づいているだろう」と返される。

「セシリアは学校を卒業してからずっと働き詰めだ。あのままじゃ、身体を壊しちまう! 恋人はおろか結婚どころじゃない!」

 見守っていたクシャースラは勿論の事、どうやら両親もセシリアの働き方を心配していたらしい。

「何度休むように言っても、家と弟たちの為だと……。早く借金を返済して、弟たちをいい学校に入れる為だと、朝も暗いうちから働きだして、夜もほとんど寝ないで内職を続けている」
「そんな事が……」
「今はまだいい。けど今の生活を続けたら、あと二、三年で身体を壊す。俺たちはそれが心配なんだ……」

 顔を伏せる両親の姿から、二人がどれほどセシリアを説得し続けてきたか感じられた。

「ですが、おれの言葉をセシリアさんが聞いてくれるかどうかは……」
「アンタと話している時のセシリアは、いつも楽しげだった。俺たちと居る時よりずっと」

 どうやら、偶然を装ってセシリアと話していたクシャースラの姿を、セシリアの両親は見ていたらしい。
 クシャースラは掌を強く握りしめる。
 ーーそんな事に、なっていたのか。
 悲痛な様子のセシリアの両親を見ていられなかった。
 やがて、「分かりました」とクシャースラは返す。

「お役に立てるかはわかりません。ですが、おれもセシリアさんが心配です。一緒にセシリアさんを止めます」
「ありがとうございます……!」

 母親が涙を流しながら、安心した様子を見せる。
 そんな顔を両親にさせるのも良くないと、セシリアに伝えたい。
 けれどもそれ伝えるには、今の関係は遠すぎる。
 もっと近づかなくては、セシリアの元に。

 その次の休みの日。
 クシャースラは下町にやって来ると、とある花屋の前で立ち止まる。
 花屋の店先には、色とりどりの花と、それらを手入れするセシリアの姿があった。
 クシャースラは近づくと、「セ、セシリアさん!」とうわずった声を上げる。

「あら、オウェングス様。こんにちは」
 顔を上げたセシリアは、クシャースラに笑みを向ける。
「今日はお花を買いに?」
「は、はい! そうなんです!」

 カチコチになりながら、セシリアに店内を案内されるクシャースラの姿に、レジに居たセシリアの母親と、花屋の店主である五十代くらいの女性は忍び笑いをする。

「女性にプレゼントしたいのですが、どんな花を買えばいいのか分からなくて……」
「女性にですか?」
「はい。好きな女性にプレゼントしたいんです! セシリアさんはどんな花がお好きですか?」
「私ですか? でも、オウェングス様が好きな女性と同じ好みかどうか……」
「いいえ! セシリアさんと同じ方なんです! セシリアさんの選んだ花に間違いありません!」

 ここまであからさまなクシャースラの姿に、二人を見守っていた女性たちの笑いは、我慢の限界に近づいていた。