思い切って言ってみると、ローレンはぽかんとした顔で私を見つめ、やがて震える指を私に向けた。

「え? 嘘。いるの? 他にも?」

「そこでの名前は赤倉凛音って言うんだけど」

「リンネ……凛音? 嘘でしょ? 私、琉菜だよ?」

「……琉菜?」

 まさか、と思って呼びかければ、ローレンは目を瞠り、私の腕を掴んで物陰へと引きずっていく。
 あ、この動きに既視感あるよ。自分の話をしたいときに、強引に腕を引っ張るこの態度。

「ほ、本当に凛音なの? 悪役令嬢のリンネ様じゃなくて、赤倉凛音?」

「うん。そっちこそ、本当に琉菜? じゃあ私達、あのときに一緒に転生しちゃったの?」

「私が琉菜の記憶を取り戻したのも八歳のときだよ。あれ、何なんだろうね。昔の記憶がどーって入り込んできて、まるでそっちの人生を生き直しちゃったみたいな。だからローレンの記憶はあるんだけど薄いっていうか……まるで琉菜がローレンを乗っ取っちゃったみたいな」

「分かる! 私もそんな感じ」

 そう、体は間違いなくこっちの世界のリンネで、記憶もあるんだけど、頭がまるきり赤倉凛音のものなのだ。
 この特異な感覚を理解してくれるのは、同じ体験をした人でしかありえない。この子はたしかに琉菜なんだろう。

 ……私だけじゃなかったんだ。

 そう思った途端に、なんだか気が抜けてしまった。この八年、自分なりに起きてしまった出来事を受け止め、他に相談する人もなく頑張ってきた。ようやく同士に会えたという事実に、心の底から安堵する。