「とにかく、今みたいに避けられているんじゃなんにもできない。どうしよう。転入するのも遅れちゃったからうまくいかなのかな……。ああ、推し!推しに近づきたい」

 やはり彼女の言動はおかしい。〝推し〟とか〝悪役令嬢〟とか、この世界では聞いたことない言葉を使って……。

 そこでようやくひらめいた。
 ……もしかして、私のほかにも、日本からこの世界に転生した人っているんじゃない?
 あり得ないことじゃない。なんといっても私という転生例があるのだから。
 そしてローレンも転生令嬢だというのなら、言動のおかしさは理解できる。

「あの、ローレン様」

「ひぃええっ」

 令嬢とは思えない悲鳴が飛び出した。ローレンは振り向いて私を見つけると、一気に青ざめた。

「リ、リンネ様。いつからそこに……」

「えっと、ちょっと前からなんですが」

「そ、そうですか、あの、では私はこれで!」

 ローレンが立ち上がると逃げるように走り出した。しかし、令嬢の小走りに追いつけない私ではない。

「待ってください、ローレン様」

「早っ。な、なんですか」

 うん。動転して言葉遣いがおかしくなっている。走り出したところから見ても、少なくとも生粋の令嬢ではないな。

「日本」

 ぼそりと言うと、ローレンがあからさまに体を震わせた。

「な……なんとおっしゃいましたか?」

「やっぱり反応してるよね? 日本のこと知ってる? 私、八年前から日本の女子高生の記憶があるんだけど」