これが古代文字じゃないかと、五年前にリンネがぼそりと言ってから、クロードは古代語について調べている。魔術書の入手にずいぶんと苦労していたようだが、今年に入ってようやく入手先が見つかったと言っていた。最近は寝る間も惜しんで読んでいるようだ。

 そこでノックの音が響く。

「誰だ!」

 焦って叫ぶと、「僕だよ。起きているのかい、レオ」とクロードの声がする。

 俺はホッと息を吐きだし、慌てて服を着こんで、「入っていい」と返事をした。
 すぐに、扉が明けられ、夜着の上にガウンを羽織ったクロードが苦笑する。

「窓から君の部屋に明かりがともったのが見えたから気になってね。大丈夫かい? 具合が悪い?」

 人好きのする笑みで、彼はそう言う。
 俺が伯母のもとから救い出されてからしばらくは、クロードが同じ部屋で寝て、悪夢に怯えて起きる俺をなだめてくれた。
 もうそんな子供ではないが、あの頃と同じように、心配してくれることが、俺にはうれしかった。

「……おまえはずっと起きていたのか?」

「いろいろ分かって来たからね。調べ切ってしまいたかったし」

 クロードが魔術書を見せる。寝る間を惜しんでまですることではないと言いたいのに、彼がそうやってかけてくれる気遣いがうれしくもあるから困ったものだ。

「なにか分かったか?」

「この文字が古代語であることと、呪文であることは間違いなさそうだ。リトルウィックではね、このくらいの紙に古代語で呪文を書いた護符が流通しているらしい。人間に直接書く手法はこの本には書いていないけれど、上級者ならできるのかもしれない。この魔術書は入門書だから、これ以上のことは分かりそうにないけれど」