中学時代からの友人である琉菜はマンガ・アニメ・小説をこよなく愛するオタクだ。スポーツ系女子の私とは正反対の中身の持ち主だが、中二のときに一緒に文化祭実行委員をやってから、意外と気が合うことが分かり、一緒にいることが多くなった。

 うちの高校は一応進学校であり、就職に関するノウハウがあまりない。生徒のほとんどが進学を選ぶこの学校では、成績が大事なはずなのだが、琉菜の余裕はいったいどこから来るのだろう。

 私も人のことを言えた成績ではないが、他にも武器がちゃんとある。これでも、県陸上競技大会優勝者なのだ。まあ、全国大会では決勝まで進めなかったのだけれど。
 つまるところ、私が狙っているのはスポーツ推薦なので、赤点を回避できれば問題ない。
 だが、琉菜はそうもいかないだろう。確実に一般入試コースだ。

 ちゃんと勉強しろよ、という気持ちを込めてちらりと見ると、興味を引いたと思ったのか、目を輝かせて語りだした。私の不安が増大するような勢いで。

「それよか、聞いてよ! 昨日の本、めっちゃ良かったんだから。幼い王子の苦悩、そして成長してからの真実の愛! 愛の力が呪いを解く! 最高! これぞ至高」

 けたたましく語り始めたので慌てて琉菜を止める。

「あー、やめて琉菜。新しいことを聞いたら、昨日覚えた分がこぼれていく」

「そんなにすぐ忘れる勉強、役に立たないじゃん。意味なーい」

 それはたしかにそうなのだが、これから琉菜がする話は、少なくとも私にとっては全く重要ではない。そんなもので、せっかく覚えた日本史の年号を脳から追い出されては困る。