レオは一瞬、怯む。その姿を見ても、この婚約破棄が、彼が言い出したものでないことは明白だ。

「リンネから言い出したのかい? 一体……」

「だったらどうすればいい? 俺はリンネにあんな顔をさせたいわけじゃない」

「……レオ」

『死ぬまででいい、リンネを独り占めしたい』
 婚約を決めたとき、レオは僕にそう言った。その表情と態度から、僕は彼が本気なのだと思った。少なくとも、こんな風にすぐ撤回するような決意ではなかったはずだ。

「……クロード」

 レオがぽつりと言う。

「リンネに笑っていてほしいんだ。どうすればいい? もう頼めるのがクロードしかいない。……頼む」

 なにを言っても無駄そうなその態度に、僕はため息をつく。

「レオ。君はリンネが好きなんだろう?」

「クロードもだろ?」

「言ったろ。俺はずいぶん前に諦めたよ。だって彼女は君のものだ」

「……そうじゃないんだ、クロード。諦めなくていい」

 レオは必死の形相で、僕の腕をつかむ。

「リンネはクロードが好きなんだ。だからリンネを幸せにしてやってくれ。あいつを泣かせないでくれ」

「……君は賢いのに、時々どうしようもない馬鹿だ」

 思わず舌打ちが出てしまう。なんでこの期に及んですれ違っているのか呆れてしまう。
だが、聞いていると問い詰めるべきはレオの方ではないらしい。

「王妃様は納得なさっていない。そう簡単に婚約破棄できるとは思わないことだね」

 そう告げると、レオは傷ついたような、けれどどこか安心したような顔でうつむいた。