そのままエスカレーターを下までかけ降りた。


外は帰宅ラッシュが始まっていた。


人波のなかを歩きながら、じわっと涙が溢れてきて。目の前の景色が蜃気楼みたいにぼやけた。




カチカチカチ……。


静まり返った夜の家のなかで、時計の秒針がやけにひびく。


……もう8時なのに、朔くんが帰ってこないんだ。


私がここへ来てから、こんなに帰りが遅くなることなんてなかったのに。


夕飯は食べずに待っていた。


完成したサラダうどんは、ラップをかけて冷蔵庫にしまってある。


朔くん、どこでなにしてるの?


まだ、あの女の人と一緒にいるの……?


早く、帰ってきて。


1分……また1分と経つほどに、焦りが募っていく。


──ガチャ。


そのとき、玄関の鍵が開く音がした。