気付けば、小春をぎゅっと抱きしめていた。


戸惑ったような声で名前を呼ばれ、はっと我に返った。


そのとき、パッと部屋の灯りがついた。


キッチンのシンク前で、しゃがみ込んだまま抱き合うようになっていた俺たち。


小春が、慌てて体を離す。


「ご、ごめんね……」


「ああ」


俺は立ち上がって、辺りを見回す。


全ての電気は元通り。


やっぱりどこかに雷が落ちて、一瞬停電したんだな。


「あっ……」


シンクの中をのぞいた小春が、割れた皿を取ろうとしたから。


「小春は触んないで、俺がやるから」


俺は割れた皿を拾い、袋に入れていく。


「ごめんね……」


そのそばで様子を見守る小春が、申し訳なさそうに謝る。


「いいって、皿なんて腐るほどあるし」


「ふふっ。お皿は腐らないけどね」


「だよな」


自分で言って、笑う。