こうして、ロザリーがケネスとともにディラン先生の毒物講座を受けている頃、ザックとイートン伯爵は夜会で約束を取り付けた造幣局の視察に訪れていた。

「近代的な建物ですね」

「十年前に一度建て直しているんですよ。当時の最新の構法で建てられております」

造幣局に入るのは初めてだ。案内をしてくれるのは局長でもあるウィストン伯爵である。

「殿下は硬貨ができる工程をご存知ですかな? 簡単に言うと、金属を溶かし、型に入れ、圧延……圧力をかけて均一な厚さまで延ばしていくのです。最後に円形にくりぬきます。うまく形作れない硬貨は、最初の工程に戻ってもう一度作られます。金属は余すところなく使用され、徹底的に無駄は省いております」

ウィストン伯爵は自信ありげに胸を反らした。ザックは実際に鋳造仕事をしている工場も見せてもらった。金属を溶かすため、部屋の中も高温になっている。
多少機械化されたとはいえ、まだまだ手作業は多く、金属を引き延ばす作業は特に力と精密さが必要となる。
職人たちの苦労をザックは胸に刻んだ。

「ウィストン伯爵。わが国で作られてるのは金貨、銀貨、銅貨ですよね。今年は国王在位三十周年の記念硬貨も作られました。あれの金属比率はどうなってるんですか?」