第2話 絵本の中のストーリー


ここで君たちにも、ぼくのお話をちょっと紹介するね。


ぼくのお話の中には猫が出てくるんだ。


その猫が三月のある日、飼われている家の庭を歩いていたら、花壇の中に、ウグイスが来ていて、美しい声で春の歌をチューリップに歌って聞かせていたんだ。


ウグイスの思いがけない歌のプレゼントに、チューリップはとても喜んで、うれしそうに花首を右に左に軽く揺すってリズムを取りながら、ウグイスの歌に応えていたんだ。


猫もウグイスの歌声にうっとりして、花壇から少し離れたところにある梅の木の陰に隠れて、聞き入っていたんだ。


猫は自分の声にも自信があったので、ウグイスの声に刺激されて、自分もチューリップに美しい声を聞いてもらいたいと思ったんだ。


そこで猫はウグイスが山へ帰っていったあとで、花壇の近くに行って、


「ねぇ、チューリップさん、私の声もきれいでしょ ? 」


と、猫なで声で話しかけてから、


「ニャーン」


と鳴いたんだ。


でもチューリップは猫の鳴き声にはあまり興味を示さなかった。


美しいともニャンとも思っていないようだったので、猫は花壇の中にふんをして、チューリップに嫌がらせをしたんだ。


ウグイスはそれからも毎日、花壇の中に中に降りてきて、きれいな声で、チューリップに歌を歌って聞かせていた。


それを見て猫はだんだん、ウグイスにやきもちを焼くようになっていって、


(うるさいわね。いい声をしていると思って、調子に乗っていると、とっつかまえて食っちまうよ)


と思って、その機会をうかがっていたんだ。


 そんなある日、梅の木の陰に猫が隠れているとも知らないで、ウグイスが梅の木のすぐ近くまで歩いてやってきたんだ。それを見て、


( よし、今だ ! )


と思った猫が、梅の木の陰から忍者のように姿を現して、思い切りジャンプをして、ウグイスに飛びかかろうとしたんだ。


その瞬間、


( 危ない ! )


と、ぼくが思って、ウグイスと猫に強い風を吹きつけたんだ。


ウグイスは空に吹き飛ばされて、間一髪で難を逃れることができた。


猫は梅の木に頭をしたたかに打ちつけて、


「うーん、痛いにゃーん」


と、つぶやいてから、しばらくその場から動けなくなってしまったんだ。


梅の木も痛かったので、


「うーん……」


と、苦しそうな声を出したんだ。梅の木の声だから、梅木声(うめき声)というのかなぁ……。


 猫はそれでも懲りないで、


(いつかウグイスをつかまえて食っちまおう。そうしたら自分もチューリップをうっとりさせるような声が出せるかもしれない)


と思って、ウグイスをしつっこく、ねらい続けたんだ。


でも猫がウグイスに飛びかかろうとするときには、いつもぼくが、はやてのように、さっと現れて、猫とウグイスに強い風を吹きつけて、ウグイスを空へ逃がし、猫には体を木にぶつけさせてばかりいた。


そのため猫は体じゅう傷だらけになっていったんだ。


そしてやがてチューリップの花の時季が終わると、ウグイスは山から降りてこなくなった。


それを知って猫は、


(鳥をとり逃がした)


と思って、がっかりしていた。


チューリップの盛りが過ぎたので、猫もチューリップをうっとりさせようとは思わなくなった。


しかし今度は猫が自分に盛りがついたので、恋の相手を探して、一日じゅう、うろうろと外を出歩くようになったんだ。


そしてぼくの便り、つまり風の便りで、うっとりするほどハンサムなオス猫を見つけて、恋に陥ることができた。そして体の傷もいえていったというお話。


以上がぼくの絵本の内容だよ。どう ? 少しは面白かった ? だとすれば、ぼくはうれしいなあ。