第13話 かおり、カンボジアへ行く
岩山先生から電話があってからまもなく、かおりちゃんと、かおりちゃんのおかあさんは、家を出て、JRの武雄温泉駅から電車で博多に向かった。博多から新幹線で東京に向かい、夕方、集合場所のホテルに着いて、ほかの参加者と顔を合わせた。
旅行の参加者は全部で八人だった。子どもは、かおりちゃんだけだったから、かおりちゃんは、最初はさびしそうな顔をしていた。でも、ほかの大人の人たちが、みんな、やさしそうな人ばかりだったから、時間がたつにつれて、かおりちゃんは、子どもは一人でも、そんなにさびしくないと思うようになっていた。
かおりちゃんは、スヌーピーの絵がついたバッグを肩からさげていた。バッグの中に、ぼくの絵本を入れて持っていってくれたので、ぼくはとてもうれしかった。
かおりちゃんはスレイモンちゃんに会いたいと思っていた。「かおりちゃん、絵本をおくってくれてありがとう。とてもおもしろかったよ。スレイモン」と、書いてくれた、あの女の子だ。ぼくも二人が会えたらいいなと心から願っている。
かおりちゃんのおかあさんの若草色の大きな旅行かばんの中には、かおりちゃんが五年生のときのクラスのお友だちと、岩山先生から預かってきたノートと鉛筆とリコーダーとサッカーボールが入っていた。
かおりちゃんたちが乗った飛行機は、四月三十日の朝、成田空港を飛び立って、その日の夕方、タイのバンコクに着いた。バンコクのホテルで一泊して、翌朝、再び飛行機に乗って、お昼ごろ、カンボジアの首都のプノンペンに着いた。
空港では、絵本を送る活動をしているボランティアの人たちが、かおりちゃんたちを笑顔で出迎えてくれた。その中には、かおりちゃんに手紙を書いてくれた森川さんという人もいて、かおりちゃんに会えて、とてもうれしそうな顔をしていた。
かおりちゃんたちは、空港から車に乗って、ボランティアの人たちが働いている事務所まで行った。事務所の中には、日本から昨日着いたばかりの絵本が段ボール箱に積まれていた。
「全部で二千冊ぐらいあるわよ」
森川さんが、そう話していた。その中には、かおりちゃんや、かおりちゃんが五年生だったときのクラスのお友だちや、岩山先生がシールを貼って、裏表紙の内側にローマ字で名前を書いた絵本もあるとのことだった。それらの絵本を捜し出して、「あった ! 」と言って、かおりちゃんがにっこりしていた。
かおりちゃんたちは、翌日からさっそく、絵本がどのように読まれているのかを見学するための旅行を始めた。小学校や、お寺の中にある図書館や図書室を、かおりちゃんたちは、車で幾つか回っていた。
どこの図書館や図書室に行っても、目をきらきらと星のように輝かせながら、自分で絵本を読んだり、大人から読んでもらっている子どもたちの姿があったので、かおりちゃんたちは、とても感激していた。
お寺の中にある図書館に行ったときに、森川さんが、
「ここで絵本を読んでもらっている子どもたちの中には、家が貧しいために、小学校を途中でやめて、家の手伝いをしたり、働きに行ったり、赤ちゃんを連れてきて、子守りをする子もいるのよ」
と教えてくれた。
(ふーん、そんな子もいるのか。日本では考えられないなあ)
かおりちゃんが顔を曇らせていた。
「ほら、この子がスレイモンちゃんよ」
かおりちゃんが二ロード図書館に行ったときに、森川さんが、かおりちゃんにスレイモンちゃんを紹介していた。
かおりちゃんは、はっとして、目の前にいたスレイモンちゃんを、気恥ずかしそうに、しばらくじっと見ていた。
そのあと、かおりちゃんが、ブラウスの胸ポケットの中から、メモ用紙を取り出して、それを見ながら、
「チュムリァプ スォー。クニョム チュモッ カオリ。 クニョム マォク ピー チョポン」
( こんにちは。私の名前はかおりです。日本から来ました )
と言うと、スレイモンちゃんは、ひなげしのように明るく笑っていた。
かおりちゃんが、バッグの中から、ぼくの絵本を取り出して、スレイモンちゃんが日本語で書いてくれたところや、その上に貼ってあったスレイモンちゃんの写真を指でさすと、スレイモンちゃんは、初めは驚いたような顔をしていた。でもすぐに白い歯をのぞかせながら、照れたように笑っていた。
スレイモンちゃんは足が不自由で、右足が義足であることに気がついたかおりちゃんが、森川さんに、
「どうしたの ? 」
と心配そうに聞いていた。
「三歳のときに、家の近くで遊んでいるときに、誤って地雷を踏んだんです」
森川さんが、かおりちゃんに、つぶやくような声で教えていた。
かおりちゃんは、スレイモンちゃんに、自分の写真が入った写真立てをプレゼントしていた。写真立てのわくには、かおりちゃんが、おとうさんや、おかあさんといっしょに海に遊びに行ったときに拾ってきた貝殻と、百円ショップで買ってきたビーズが接着剤で、くっつけられていた。
すてきなプレゼントに、スレイモンちゃんは、にっこりと笑みを浮かべながら、
「オークン(ありがとう)」
と答えていた。
岩山先生から電話があってからまもなく、かおりちゃんと、かおりちゃんのおかあさんは、家を出て、JRの武雄温泉駅から電車で博多に向かった。博多から新幹線で東京に向かい、夕方、集合場所のホテルに着いて、ほかの参加者と顔を合わせた。
旅行の参加者は全部で八人だった。子どもは、かおりちゃんだけだったから、かおりちゃんは、最初はさびしそうな顔をしていた。でも、ほかの大人の人たちが、みんな、やさしそうな人ばかりだったから、時間がたつにつれて、かおりちゃんは、子どもは一人でも、そんなにさびしくないと思うようになっていた。
かおりちゃんは、スヌーピーの絵がついたバッグを肩からさげていた。バッグの中に、ぼくの絵本を入れて持っていってくれたので、ぼくはとてもうれしかった。
かおりちゃんはスレイモンちゃんに会いたいと思っていた。「かおりちゃん、絵本をおくってくれてありがとう。とてもおもしろかったよ。スレイモン」と、書いてくれた、あの女の子だ。ぼくも二人が会えたらいいなと心から願っている。
かおりちゃんのおかあさんの若草色の大きな旅行かばんの中には、かおりちゃんが五年生のときのクラスのお友だちと、岩山先生から預かってきたノートと鉛筆とリコーダーとサッカーボールが入っていた。
かおりちゃんたちが乗った飛行機は、四月三十日の朝、成田空港を飛び立って、その日の夕方、タイのバンコクに着いた。バンコクのホテルで一泊して、翌朝、再び飛行機に乗って、お昼ごろ、カンボジアの首都のプノンペンに着いた。
空港では、絵本を送る活動をしているボランティアの人たちが、かおりちゃんたちを笑顔で出迎えてくれた。その中には、かおりちゃんに手紙を書いてくれた森川さんという人もいて、かおりちゃんに会えて、とてもうれしそうな顔をしていた。
かおりちゃんたちは、空港から車に乗って、ボランティアの人たちが働いている事務所まで行った。事務所の中には、日本から昨日着いたばかりの絵本が段ボール箱に積まれていた。
「全部で二千冊ぐらいあるわよ」
森川さんが、そう話していた。その中には、かおりちゃんや、かおりちゃんが五年生だったときのクラスのお友だちや、岩山先生がシールを貼って、裏表紙の内側にローマ字で名前を書いた絵本もあるとのことだった。それらの絵本を捜し出して、「あった ! 」と言って、かおりちゃんがにっこりしていた。
かおりちゃんたちは、翌日からさっそく、絵本がどのように読まれているのかを見学するための旅行を始めた。小学校や、お寺の中にある図書館や図書室を、かおりちゃんたちは、車で幾つか回っていた。
どこの図書館や図書室に行っても、目をきらきらと星のように輝かせながら、自分で絵本を読んだり、大人から読んでもらっている子どもたちの姿があったので、かおりちゃんたちは、とても感激していた。
お寺の中にある図書館に行ったときに、森川さんが、
「ここで絵本を読んでもらっている子どもたちの中には、家が貧しいために、小学校を途中でやめて、家の手伝いをしたり、働きに行ったり、赤ちゃんを連れてきて、子守りをする子もいるのよ」
と教えてくれた。
(ふーん、そんな子もいるのか。日本では考えられないなあ)
かおりちゃんが顔を曇らせていた。
「ほら、この子がスレイモンちゃんよ」
かおりちゃんが二ロード図書館に行ったときに、森川さんが、かおりちゃんにスレイモンちゃんを紹介していた。
かおりちゃんは、はっとして、目の前にいたスレイモンちゃんを、気恥ずかしそうに、しばらくじっと見ていた。
そのあと、かおりちゃんが、ブラウスの胸ポケットの中から、メモ用紙を取り出して、それを見ながら、
「チュムリァプ スォー。クニョム チュモッ カオリ。 クニョム マォク ピー チョポン」
( こんにちは。私の名前はかおりです。日本から来ました )
と言うと、スレイモンちゃんは、ひなげしのように明るく笑っていた。
かおりちゃんが、バッグの中から、ぼくの絵本を取り出して、スレイモンちゃんが日本語で書いてくれたところや、その上に貼ってあったスレイモンちゃんの写真を指でさすと、スレイモンちゃんは、初めは驚いたような顔をしていた。でもすぐに白い歯をのぞかせながら、照れたように笑っていた。
スレイモンちゃんは足が不自由で、右足が義足であることに気がついたかおりちゃんが、森川さんに、
「どうしたの ? 」
と心配そうに聞いていた。
「三歳のときに、家の近くで遊んでいるときに、誤って地雷を踏んだんです」
森川さんが、かおりちゃんに、つぶやくような声で教えていた。
かおりちゃんは、スレイモンちゃんに、自分の写真が入った写真立てをプレゼントしていた。写真立てのわくには、かおりちゃんが、おとうさんや、おかあさんといっしょに海に遊びに行ったときに拾ってきた貝殻と、百円ショップで買ってきたビーズが接着剤で、くっつけられていた。
すてきなプレゼントに、スレイモンちゃんは、にっこりと笑みを浮かべながら、
「オークン(ありがとう)」
と答えていた。

