第12話 かおり、クラスの思いを担う
その日の四時すぎに、かおりちゃんは学校から帰ると、さっそく、おかあさんに岩山先生から言われたことを話していた。
岩山先生からもらってきた旅行の案内状のコピーを見せると、おかあさんは熱心に見ていた。
「そうねえ、なかなか面白そうな旅行だわね。おかあさんとしては、行けないこともないと思っているわ。でもこういうことは、おとうさんと相談してから決めないとね」
おかあさんが、はやる気持ちを抑えるようにして、その場を取りつくろっていた。
「パパがいいと言ってくれたらいいなあ」
かおりちゃんは、おとうさんの顔を思い浮かべながら、願うような目でつぶやいていた。
夕方の六時ごろ、おとうさんが帰ってきた。
かおりちゃんと、おかあさんが、カンボジアへの旅行のことを話すと、おとうさんは案内状のコピーを読みながら、しばらく考えていた。そしてそのあと、
「行きたいなら、二人で行ってきていいよ」
と、笑顔で言ってくれた。その瞬間、かおりちゃんが、
「やったあ、パパ、だーい好き」
と言って、おとうさんの胸に飛びこんだ。おとうさんは、かおりちゃんを受けとめながら、照れくさそうにしていた。
「あなた、本当にありがとう」
おかあさんも、とてもうれしそうだった。
「おかあさんと、かおりにとって有意義な旅になったら、おとうさんもとてもうれしいよ。おとうさんもいっしょに行きたいくらいだけど、そのころはちょうど、部活動で指導しているテニス部のスケジュールが、中体連に向けての準備や、他校との交流試合などでぎっしり詰まっているからね」
おとうさんも、カンボジアへの旅行に、とても興味を覚えているみたいだった。
「分かっているわ。おとうさんにお土産を買ってくるわね」
かおりちゃんが、そう言うと、おとうさんが、にっこりしていた。
「ありがとう。二人とも、気をつけて行ってくるんだよ。おとうさんはマル子といっしょに留守番をしているから」
かおりちゃんも、おかあさんも、明るい声でうなずいていた。
翌日、かおりちゃんが、岩山先生にカンボジアに行けるようになったことを話したら、岩山先生もとてもうれしそうな顔をしていた。
「よかったわね。あとで、佐倉さんのおとうさんと、おかあさんに、先生からもお礼の電話を入れておくわ」
岩山先生の顔が、朝日をいっぱいに浴びた海のように、きらきらと輝いていて、とてもきれいだった。
「佐倉さんと、佐倉さんのおかあさんに頼みたいことがあるわ」
岩山先生が、かおりちゃんの顔を真剣な目で見ながら、言葉を続けた。
「何ですか ? 」
かおりちゃんが聞き返すと、岩山先生は少し照れたような顔で答えた。
「カンボジアに行ったら、タケオという町を訪ねて、そこにある小学校に行ってもらいたいの。そこの子どもたちに、私たちからのプレゼントとして、ノートと鉛筆とリコーダーとサッカーボールをわたしてほしいの」
岩山先生のすてきな思いつきに、かおりちゃんは、にっこり、うなずいていた。
「昨日、学校からの帰りに、先生が百円ショップに寄ったら、鉛筆は八本ひと組、ノートは三冊ひと組で売ってあったわ。
それらの文房具を、みんなのお小遣いから、お金を少しずつ出しあって買ったらどうかなと、先生は思ったわ。リコーダーとサッカーボールは学校に余っているものがあるので、それを送ろうと思っているの。荷物になるかもしれないけれど、もしよかったら、持っていってほしいの」
岩山先生のやさしさを感じて、かおりちゃんは胸の中が熱くなっているみたいだった。
「荷物だなんて、とんでもないわ。私、喜んで持っていくわ。おかあさんも、たぶん同じだと思うわ」
かおりちゃんが、にっこりしながら答えたので、
「ありがとう」
と、岩山先生が、うれしそうに笑みを浮かべていた。
それから二週間ほどがたって、かおりちゃんは六年生になった。担任は岩山先生の持ち上がりだったけど、クラスは入れ替えがあったので、新しいお友だちが、かおりちゃんにはできた。
新しいクラスに少しずつ慣れてきたころ、かおりちゃんが、いよいよ、おかあさんといっしよにカンボジアに向けて出発する日がやってきた。
出発の前日、岩山先生が電話で、
「かおりちゃん、元気で行ってくるのよ。あとで、すばらしいお話を聞かせてちょうだいね」
と、はなむけの言葉をかけてくださった。
かおりちゃんは、にっこり、うなずいていた。
「先生に何か、おみやげを買ってくるわ」
かおりちゃんが心を配ると、
「気を遣わないでいいわよ」
と、岩山先生が答えていた。
「あっ、そうそう、岩山先生、ご結婚おめでとうございます」
五月三日に挙式することを、岩山先生はクラスの子には黙っていたのですが、いつのまにか、みんなが知っていた。
「ありがとう」
岩山先生の声が明るく伝わってきた。
「あとで岩山先生の花嫁写真を見せてくださいね」
かおりちゃんがお願いすると、岩山先生が照れたような声で。くすくすと笑っているのが、電話の中から聞こえてきた。
その日の四時すぎに、かおりちゃんは学校から帰ると、さっそく、おかあさんに岩山先生から言われたことを話していた。
岩山先生からもらってきた旅行の案内状のコピーを見せると、おかあさんは熱心に見ていた。
「そうねえ、なかなか面白そうな旅行だわね。おかあさんとしては、行けないこともないと思っているわ。でもこういうことは、おとうさんと相談してから決めないとね」
おかあさんが、はやる気持ちを抑えるようにして、その場を取りつくろっていた。
「パパがいいと言ってくれたらいいなあ」
かおりちゃんは、おとうさんの顔を思い浮かべながら、願うような目でつぶやいていた。
夕方の六時ごろ、おとうさんが帰ってきた。
かおりちゃんと、おかあさんが、カンボジアへの旅行のことを話すと、おとうさんは案内状のコピーを読みながら、しばらく考えていた。そしてそのあと、
「行きたいなら、二人で行ってきていいよ」
と、笑顔で言ってくれた。その瞬間、かおりちゃんが、
「やったあ、パパ、だーい好き」
と言って、おとうさんの胸に飛びこんだ。おとうさんは、かおりちゃんを受けとめながら、照れくさそうにしていた。
「あなた、本当にありがとう」
おかあさんも、とてもうれしそうだった。
「おかあさんと、かおりにとって有意義な旅になったら、おとうさんもとてもうれしいよ。おとうさんもいっしょに行きたいくらいだけど、そのころはちょうど、部活動で指導しているテニス部のスケジュールが、中体連に向けての準備や、他校との交流試合などでぎっしり詰まっているからね」
おとうさんも、カンボジアへの旅行に、とても興味を覚えているみたいだった。
「分かっているわ。おとうさんにお土産を買ってくるわね」
かおりちゃんが、そう言うと、おとうさんが、にっこりしていた。
「ありがとう。二人とも、気をつけて行ってくるんだよ。おとうさんはマル子といっしょに留守番をしているから」
かおりちゃんも、おかあさんも、明るい声でうなずいていた。
翌日、かおりちゃんが、岩山先生にカンボジアに行けるようになったことを話したら、岩山先生もとてもうれしそうな顔をしていた。
「よかったわね。あとで、佐倉さんのおとうさんと、おかあさんに、先生からもお礼の電話を入れておくわ」
岩山先生の顔が、朝日をいっぱいに浴びた海のように、きらきらと輝いていて、とてもきれいだった。
「佐倉さんと、佐倉さんのおかあさんに頼みたいことがあるわ」
岩山先生が、かおりちゃんの顔を真剣な目で見ながら、言葉を続けた。
「何ですか ? 」
かおりちゃんが聞き返すと、岩山先生は少し照れたような顔で答えた。
「カンボジアに行ったら、タケオという町を訪ねて、そこにある小学校に行ってもらいたいの。そこの子どもたちに、私たちからのプレゼントとして、ノートと鉛筆とリコーダーとサッカーボールをわたしてほしいの」
岩山先生のすてきな思いつきに、かおりちゃんは、にっこり、うなずいていた。
「昨日、学校からの帰りに、先生が百円ショップに寄ったら、鉛筆は八本ひと組、ノートは三冊ひと組で売ってあったわ。
それらの文房具を、みんなのお小遣いから、お金を少しずつ出しあって買ったらどうかなと、先生は思ったわ。リコーダーとサッカーボールは学校に余っているものがあるので、それを送ろうと思っているの。荷物になるかもしれないけれど、もしよかったら、持っていってほしいの」
岩山先生のやさしさを感じて、かおりちゃんは胸の中が熱くなっているみたいだった。
「荷物だなんて、とんでもないわ。私、喜んで持っていくわ。おかあさんも、たぶん同じだと思うわ」
かおりちゃんが、にっこりしながら答えたので、
「ありがとう」
と、岩山先生が、うれしそうに笑みを浮かべていた。
それから二週間ほどがたって、かおりちゃんは六年生になった。担任は岩山先生の持ち上がりだったけど、クラスは入れ替えがあったので、新しいお友だちが、かおりちゃんにはできた。
新しいクラスに少しずつ慣れてきたころ、かおりちゃんが、いよいよ、おかあさんといっしよにカンボジアに向けて出発する日がやってきた。
出発の前日、岩山先生が電話で、
「かおりちゃん、元気で行ってくるのよ。あとで、すばらしいお話を聞かせてちょうだいね」
と、はなむけの言葉をかけてくださった。
かおりちゃんは、にっこり、うなずいていた。
「先生に何か、おみやげを買ってくるわ」
かおりちゃんが心を配ると、
「気を遣わないでいいわよ」
と、岩山先生が答えていた。
「あっ、そうそう、岩山先生、ご結婚おめでとうございます」
五月三日に挙式することを、岩山先生はクラスの子には黙っていたのですが、いつのまにか、みんなが知っていた。
「ありがとう」
岩山先生の声が明るく伝わってきた。
「あとで岩山先生の花嫁写真を見せてくださいね」
かおりちゃんがお願いすると、岩山先生が照れたような声で。くすくすと笑っているのが、電話の中から聞こえてきた。

