「まあまあ、それだけでいいの?」
「ええ。この子は【切り株亭】の従業員です。宿が流行るのが一番ですから」
「そう? じゃあ宣伝しておくわね。本当にありがとう」
夫人は「気持ちだけだけど」と飲み物の代金を少し多めに払っていった。
本当のことを言う間はなく、ロザリーは困ったようにザックを見つめた。
「ザックさん」
「宣伝を頼んだだけだろ? 何も罪悪感を持つ必要はない。金銭を要求したわけじゃないよ」
「そうでしょうか」
「今回だけは俺の言うことを聞きな。あの年齢のご婦人は、宣伝にはうってつけだ。明日には君の存在が街中に広まっていることを約束するよ」
「まさか」
「それに、君がズルをしたわけでもない。仕組んだのは俺だ」
それはたしかに、と思って、ロザリーはふと考える。だけど、ザックにだってメリットがあるわけでもないのだ。
ここで雇ってほしいのはロザリーであって、ザックが手助けする必要など本当はない。
「ザックさんはどうして私の手伝いをしてくれるんですか?」
「あまりに世間知らずなお嬢さんを放っておけないだけだよ。これも貴族の義務だろう?」
この国では、貴族のような特権階級は慈善活動にいそしむよう教育されている。財産・権力を持つものは、持たざる者を守る義務を負う、というものだ。
法的に決まっているわけではないので、もちろん慈善事業に興味のない貴族もいるが、多くの貴族が孤児院への支援をするし、地方領主は領内の街を活性化させるべく、さまざまな支援を行っている。
(私を支援するのはその一部になるの?)
やがて、ガヤガヤと数人がまとめて切り株亭に入ってきた。
「失せもの探しが得意な子がいるって本当かい? 探してほしいものがあるんだけど」
「俺が先だよ。かーちゃんのへそくりを探してほしいんだ」
「馬鹿だね、そんなの見つけられるわけないだろ?」
我先にとやって来る人を見て、ロザリーは目をぱちくりとさせる。
「ほらね。明日どころか今日中に知れ渡りそうだ」
ぱちりとウィンクをされて、ロザリーは思わず絶句してしまった。



