家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

オロオロとして、今にも泣きだしてしまいそうだ。
旦那様が厳しいのか、それともよほどお気に入りだったのか。
動揺している女性に、ロザリーは微笑みかける。

「大丈夫です。見つかりますよ。すみませんが、あなたの香りを覚えさせてくださいね」

そして早速、扇を使って人目から隠しながら彼女の髪の香りを嗅がせてもらう。

「南の方向へ飛んだんですね。探してきます」

ロザリーはチェルシーに失せもの探しをしてくると告げ、宿を出た。

「俺も行こう」

ザックは楽しそうにロザリーについてくる。
外に出て、まずはあたりを見回す。女性は髪粉を付けているらしく、化粧品に似た香りがしている。
漂う空気の中から香りをかぎ分けられないかと頑張ってみたが、温泉の香りが強いアイビーヒルは、どうしてもほかの香りが消されてしまう。

「ロザリー、こっちだ」

ザックに手招きされて向かうと、橋の近くの街路樹に帽子が引っかかっていた。

「これは」

「彼女のものか香りで判断できるか?」

「多分。……でも届かないです」

「それは問題ない」

ザックは助走をつけてジャンプすると、帽子のつばを掴んで手に取った。
木々は揺れ、川に落ちた葉がゆったりと流れていく。

「ほら」

差し出された帽子の香りを嗅げば、たしかに依頼の彼女のものだ。