「お嬢ちゃん、荷物はこれで全部かい? ひとりでもてるのかい?」

「大丈夫です。これ、車輪がついてるんですもん!」

馬車の御者も、あまりに無邪気な様子のロザリーに心配なる。耳打ちするような小さな声で、「お嬢ちゃん、この街に知り合いでもいるのかね?」と尋ねた。

対するロザリーはあっけらかんとした笑顔だ。

「いえ? でも大丈夫なんです。ここはよく知っているところなんですもの」

「そうかい。じゃあ気を付けていくんだよ」

「はい!」

スーツケースを転がしながら歩き出すロザリーを御者は心配そうに見送った。

「街の名前も知らないのに、……ほんとかね」

ひとりごちたのは、先ほどまでロザリーの隣に座っていた年配の女性だ。
乗合馬車は、世間知らずそうな娘に後ろ髪を引かれつつも、次なる街を目指して動き出した。