家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました


「そ、そんなぁ……」

「つまり、硬貨は失くしたわけじゃなかったということだな。変色し黒ずんだことで、君が硬貨を見つけられなかった。それだけのことだったんだ」

「嫌だぁ、僕のコインー! あんなに綺麗だったのに!」

大泣きになるボビーは、ロザリーがなだめても収まらなかった。

「いい加減にしろ! ボビー! 泣きたいのはこっちだ。私がこの旅行のために何日分の稼ぎをつぎ込んだと思ってるんだ」

ゲイリーは羞恥といら立ちをあらわにする。ボビーに向かって手が上がったのを見て、ロザリーはとっさにボビーをかばうように抱きしめた。
ギュッと目を閉じ、降りてくるゲイリーの手を待ったが、いつまでたっても痛みはやってこない。恐る恐る薄目を開けると、ザックが険しい表情でゲイリーの腕を押さえている。

「は、離せ」

「落ち着いてくださいよ、ゲイリー殿」

そして、ロザリーとボビーに向かってほほ笑んだ。

「心配することはない」

「ザックさん?」

「たった一日でできた錆など表面的なものだ。完璧にとは言わないが、元に戻せないわけじゃない。チェルシー! 磨き粉を持ってきてくれないか?」

ザックの呼びかけに、チェルシーは掃除道具入れから、掃除用の磨き粉を持ってくる。

「これを軽く磨いてみてくれ。……こすればまた輝きを取り戻すことはできるはずだ」

チェルシーは言われた通りに磨き粉を付け、コインを軽くこする。さっと水洗いして戻ってくると、一部ざらついた部分はあれど、ほぼ元の金に近い色がよみがえった。