家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

祖母は元が商家の出で、嫁いだ先も辺境の男爵家。そこまで身分に凝り固まってはいなかった。だが、母は生粋の貴族だったため、祖母がロザリーを大浴場にいれて行こうとしたことに腹を立て、部屋に閉じこもっていた。
せっかくならお母さまもいれば楽しかったのに……と思った幼いロザリーは、その後、母と二人きりになったときにこっぴどく叱られた。せっかくの旅行が嫌な思い出になって悲しかったことも思い出せる。

記憶にはまだ続きがある。

『やだ、変色しちゃった』

誰かの声にロザリーは顔を上げる。
若い女性が首にかかったネックレスを触って眉をひそめている。

『そんなものをつけてくるからよ』

『だって、せっかく買ってもらったのに。うそー真っ黒だわ』

『おばあ様、あれなに?』

『ああ、お湯でまれに変色することがあるんだよ。なんなのかねぇ』

匂いがロザリーが奥底にしまっていた記憶を引き出した。

「そうです。……あの温泉もこんな匂いでした」

だとすれば……。
ロザリーは思い立って駆け出す。